企業の特性生かし/地域防犯にチカラ

 佐賀県内では、企業の特性を生かした地域防犯への啓発活動が積極的に展開されている。2004年以降、佐賀県警察は民間企業や各種団体と「安心・安全の覚書」を締結し、業務の専門性や幅広いネットワークを合わせ持った法人組織による犯罪抑止への取り組みが進んでいる。覚書を交わして19年を迎える佐賀県ヤクルト販売による県内での取り組みを紹介する。

顧客に川柳コンテストのチラシを渡すヤクルトレディ=佐賀市内
 

応募チラシ〝お客様〟に配布

 今年4月、佐賀県ヤクルト販売(佐賀市嘉瀬町)の総務部に県警察本部生活安全企画部から一本の電話が入った。
「ニセ電話詐欺の被害防止のため川柳コンテストを実施します。ついては、コンテストの協賛をしてほしいのですが…」
 昨年、県内ではニセ電話詐欺の被害件数、額ともに過去10年間で最多を記録した。今年に入ってからもパソコンのサポート詐欺を中心とするニセ電話詐欺の発生は続いており、SNSを悪用した投資・ロマンス詐欺も後を絶たない。
 県警察は、こうした詐欺被害を食い止めるため、9つの対策を盛り込んだ被害防止プロジェクトを企画した。その中の一つが「川柳コンテスト」だった。
 同社に要請された協賛内容は2つ。
コンテスト入賞者への副賞としてヤクルト製品の提供と、応募チラシの配布だった。「両方とも重要な協賛内容ですが、たぶんチラシ配布への期待が大きい」と同社の寺井啓人専務は、即座に協賛を承諾した。同社は、7月に応募チラシ3000枚を引き取り、県内各地の営業所に所属している約300人のヤクルトレディに契約先の〝お客様〟への配布をお願いした。ヤクルト製品を各家庭に届けるともに、応募チラシを手渡して「ニセ電話詐欺が多いですよ。川柳を作って防犯を呼びかけませんか」と声をかけた。

佐賀県ヤクルト販売などが協賛する「STOPサギ!川柳2024」への応募を呼びかける関係者ら

■時代で変わる支援のあり方

 同社と県警察の付き合いは19年前から始まる。当時、県内各地で空き巣などの犯罪が多発し、地域防犯の取り組みの強化が喫緊の課題とされた中で、県警察は民間の企業や団体と「安全・安心に関する覚書」の締結を推し進めていた。同社は2005年1月21日に覚書に調印すると、ヤクルトレディ430人で構成する「町の安全安心サポート隊」を同時に発足させる。
 寺井専務は「当時は空き巣が本当に多かった」と振り返る。県警察によるとヤクルトレディからの事件目撃通報を受け、解決したケースもあった。少子高齢化が進む中で、宅配先が一人暮らしのお年寄りのケースが多くなり、高齢者の見守りへと、安全安心サポートの役割は変遷した。「今は、お年寄りの財産を狙うニセ電話詐欺の防止など、ヤクルトレディが担う地域防犯の内容は常に変化している」と寺井専務は話す。

■ちょっとした町の変化に敏感

ニセ電話詐欺を防ぐポストカードの配布に協力する佐賀県ヤクルト販売の関係者(2022年)

 ヤクルトレディが地域防犯に適任なのは、日中、乳飲料製品を必ず在宅者への手渡しを徹底しているからだ。寺井専務は「在宅するお客様に顔を覚えられ、絶対的な信頼感を得られている。こうした防犯の呼びかけも素直に聞き入れてもらえる」と説明する。さらに、営業所から顧客宅へのルートは1年を通して毎回同じ道を通るため、「地域のちょっとした変化に敏感」だという。
 覚書の締結以降、同社には県警察から随時、空き巣や詐欺被害など地域犯罪にかかわる情報が提供されている。最近では6月の定額減税に関わる詐欺事案の注意喚起を呼びかける情報が入り、営業所を通じてヤクルトレディに伝えた。「こうした情報を、商品を手渡すとときに伝えるのも、地域防犯の担い手としての義務だと考えている」と寺井専務は言う。
 今回の川柳コンテストのテーマは「ニセ電話詐欺」。「応募チラシに印刷されたテーマの文言をヤクルトレディが伝えるだけで、一人でも多くの方を詐欺の被害から守ることができる」と寺井専務らは信じている。

 

防犯OPICS

県内のSNS型投資・ロマンス詐欺
上半期で被害総額約4億8000万円

 交流サイト(SNS)上で著名人などをかたって投資に勧誘する「SNS型投資詐欺」と、SNSで恋愛感情や親近感を抱かせて金銭をだまし取る「SNS型ロマンス詐欺」の佐賀県内で認知した件数は6月末までの上半期で、2つ合わせて64件、被害額は約4億8千万円に上っている。
 そのうち投資詐欺の認知件数は45件、被害額は約3億6467万円。ロマンス詐欺の認知件数は19件、被害額1億1628万円。月別で被害が最も大きかったのは3月で、認知件数16件、被害額約1億470万円に及んでいる。この2つのSNS型の詐欺は警察庁の方針で、今年3月からニセ電話詐欺とは別の区分で統計を取るようになった。
上半期の全国統計では、「SNS型投資詐欺」の認知件数が3570件、被害額506億3千万円。「SNS型ロマンス詐欺」は、認知件数1498件、被害額153億9千万円に上っている。
 佐賀県警察は、ニセ電話やSNSを悪用した詐欺の被害を防ぐため、今春から新たなプロジェクトに取り組み、川柳コンテストや動画コンテストなどで詐欺被害の抑止に向けた施策を進めている。