新型コロナウイルスの影響が続く中、「心」を通じた人々の支え合いに取り組む県民キャンペーン「いまこそ心をつなごう、佐賀の明日へ」がスタートします。佐賀の人たちの心を結ぶことで、明日への力にしたい。さまざまな立場の人が、大切な人への思いを語ります。

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そよ風のように

 ひらひらと、庭先でチョウが舞っている。たとえば彼らを、たっぷりとしたガラスのかごに放ってみる。日差しは降りそそぎ、快適な環境だというのに、チョウたちはガラスの壁にじっとしたまま、けっして飛び立とうとはしない。

 どうしてだろう。それは空気のせいだという。人工のガラスかごと違って、自然の中で空気は絶えず動いている。そのわずかな空気の動きが、チョウがはばたくための大切な刺激になっていた。動物学者日高敏隆さんの著書に、たしかそんな挿話があった。

 そよ風がないとチョウは生きられない。きっとそれは、人間も同じかもしれない。

 人は気持ちが弾んだり、軽やかな気分になると、無意識のうちにわずかな体の「ゆらぎ」があらわれるという。凪いでいるときも敏感に、チョウたちが風の動きを感じ取るように、不思議に人も幸福感といったものを共振させている。

 人に会う。語らう。笑顔になる。「集う」ということの意味はたぶん、目には見えないそよ風を、同じ場所で一緒に感じ合うことにある。そんな人の輪から、互いを信じるこころがはぐくまれてきた。言葉も音楽も、それを仲立ちするために生まれたのだろう。

 いま世界を覆うウイルス禍は、あらゆる人の輪をむしばんでいる。近づかない。向き合わない。話さない。そんな「新しい生活様式」には、こころが通っていない。高齢化と人口減少が進む地域社会で、会うこと、集まることがリスクとされるのは余計せつない。

 共に生きるよろこびを、だれもが感じたいと願っている。自分の手を念入りに洗うように、丁寧に日々を送り、そして隣人たちに心を寄せる…。

 そんな、誰かのそよ風でありたいと思う。

佐賀新聞論説委員長 桑原昇