現在、佐野常民と三重津海軍所跡の歴史館には、佐野常民へ出された書簡、逆に佐野常民から出された書簡が残されています。現代のように、メールやSNS(交流サイト)もなく、電話も普及していない時代、当然ながら重要な通信手段は手紙でした。
今回、歴史館では「常民交遊録」と称しまして、この佐野常民をめぐる書簡から13通をセレクトいたしまして、皆さまにご覧いただく機会を設けました(テーマ展「常民交遊録」、会期・1月27日~2月26日)。
佐野に出されたものとしては、さまざまな「贈答品」(「鯨肉」、「黒ビール」「興津鯛」など)をもらうなど興味を引く反面、「法案成立への協力」では、法案担当者(山田顕義・あきよし)から法案成立のカギを握る人物として頼られたり、鎌田景弼(かげすけ)からの書簡では、成立間もない「佐賀県」内で、地域間の紛争が生じていたことの報告を受けたりするなど、これまで通史でもあまり明らかにされていない点を知ることができます。
逆に佐野から出されたもので、息子で後継者である常羽(つねは)に対して出された書簡の中では「道徳心」を大事にすること、さらに「人は自らの過失を認識することで正しい方向へ進むことができる」と、厳しく教え諭すなど「父親像」が見えてまいります。
書簡を通じて佐野の幅広い交友関係さらには、公的な資料ではみることのできない、ある意味「等身大の」佐野常民の姿を垣間見ていただきたいと思います。
(佐野常民と三重津海軍所跡の歴史館学芸員・近藤晋一郎)