12日に告示された鳥栖市長選は3人が立候補し、19日の投票に向け舌戦を繰り広げている。各候補はなぜ出馬を決意し、どんな思いで選挙戦に臨むのか。各候補の横顔を紹介する。(樋渡光憲)=上から届け出順 

 

橋本康志氏(67) 日課は帰宅後の皿洗い

 5選を目指す理由を「鳥栖駅周辺整備事業の方向付けをしたいから」と語る。会社社長時代、駅周辺活性化の勉強会を15年続け、構想発表までこぎ着けたが、市は計画の断念を発表。「中に入らないと事は成せない」と2007年の市長選に手を挙げて今に至る。

 ただし、事業は道半ば。5年前は防災拠点とする市庁舎建て替えと二者択一を迫られて「計画を一時ストップせざるを得なかった」と語り、再始動を期す。

 市長として思い出深い仕事は、九州国際重粒子線がん治療センターの誘致。議会で2度否決されたが、有用性を粘り強く説いた。国道3号の拡幅事業も「50年来の宿題に着手できた」と語る。アサヒビール工場誘致は、駅周辺整備の再検討を財源面で可能にする“起死回生”の仕事になった。

 鳥栖の地の利の良さは「その時々の先人が鉄道、道路、新幹線を鳥栖に通し、交通の要衝になるよう動いてきたから」と語る。鳥栖駅周辺整備は「交通の要衝と言われ続けるために必要な努力」と位置付ける。

 若い頃、うまくいかないものをどうにかして形にするSE(システムエンジニア)を経験し、公務でつまずいてもストレスにしない。日課は帰宅後の皿洗い。さまざまな家事を担当し、橋本家では、妻の依頼には「『イエス』か『はい』しかない」という。

■公約
(1)鳥栖駅周辺整備の推進
(2)健康スポーツセンターの整備等で健康長寿日本一へ
(3)多様な働く場の確保で働く人も地域も元気に
(4)防災、交通安全対策の充実で、安全に暮らせる街へ
(5)子どもを産み育てたくなる鳥栖市へ

 

豊増直文氏(64) 市政へ問題提起で決意

 「長きにわたる橋本市政の停滞を見直すべき時期に来ている」として立候補を決意した。選挙事務所にある色紙には自ら「千里の道も一歩から」と記した。「どんな人であれ、持っている票は一票」。前回投票に行かなかった約55%の有権者層を意識して施策を訴え、一歩ずつ積み上げる。

 立候補者の提出文書にも行政の不備を感じた。「どこに記入するのか分かりづらく、記入欄が小さすぎて書きにくかったり、書けなかったりする」といい、「一時が万事。行政の旧態依然としたやり方は変えていくべき」と強調する。

 区長を務める幸津町にはアサヒビール鳥栖工場の進出が決まった。5社の引き合いがあったが、決定プロセスや他の企業名は公表されないのは問題とし、「農業基盤を失う地元住民にとって、新規雇用などでより有利な企業もあったかもしれない」と言う。

 一昨年11月の市議選に立候補した。当選はならなかったが「453人に票を入れてもらい、うれしかった」と語る。市議選後、7割からは批判的な声を、3割からは「よくやってくれた」と言われたといい、今回は“橋本氏対自民”の構図が注目されるが、自分なりのやり方で問題提起する。

 2児の父。検討資料の印刷物は水色と黄のウクライナカラーを取り入れ、「戦争反対の思いを込めた」。

■公約
(1)16年に及ぶ橋本市政の刷新を
(2)農業従事者の生活基盤確立を
(3)少子化と発達障害問題への対応
(4)給食費の完全無料化
(5)待機児童の解消と指導員の待遇改善を
(6)医療と介護の両立を図る

 

向門慶人氏(52) 父急逝、政治家志す原点

 大学3年時の父の急逝が政治家を志した原点。搬送先が決まらず、倒れた父を乗せたまま救急車は1時間以上動かず、病院に着いた時には亡くなっていた。「人の命が守れる鳥栖市にしたい」と父が秘書を務めた衆院議員山下徳夫氏の門をたたき、政治の世界に足を踏み入れた。山下氏の政界引退を機に鳥栖市議選に挑戦。その後、県議を4期務めながら医療搬送の問題点をただし、救急搬送時間短縮などにつなげてきた。

 市長選出馬は、鳥栖市の今後の発展に疑問を感じたため。5年前に鳥栖駅の橋上駅化を白紙撤回した後、動きがない鳥栖市政に「このままではいけない」と思った。「まちの将来像を鳥栖市自身が主体的に決めていかないと、私がいくら県議を続けてもこのまちは変わらない」と決断した。

 50年来変わらない市の土地利用計画を見直し、企業誘致や宅地の用地確保につなげようと提唱する。二つのプロチームがあり、高校生も各種競技で活躍する鳥栖は「アスリートが多いまち」と言い、九州、全国大会誘致も構想に描く。

 高校まで野球に打ち込み、捕手を務めた。時間を見つけ、息子たちの野球の応援に行くのが楽しみだった。選挙事務所の神棚に父と山下氏の遺影を飾った。父が亡くなったのは今の自分と同じ52歳。市長選挑戦に巡り合わせも感じている。

■公約
(1)鳥栖駅、新鳥栖駅、都市計画、渋滞対策等々の重要施策を、培った人脈で「静から動へ」と行動力と情熱をもって前進させる
(2)子どもたちや高齢者、障害者ら弱者にもしっかりと光を照らす市民に寄り添う政治を行う。