鹿島・未来計画編
次世代を担う若者たちが地域の現状や課題を学び、理想とする未来像を描く「さが未来発見塾」。鹿島市編では鹿島高校大手門学舎の2年生12人がふるさとの魅力を掘り下げ、課題改善への道を探りました。塾生たちが未来計画を練り上げたワークショップと、松尾勝利市長へのプレゼンテーションの様子を紹介します。

鹿島市の課題と魅力を考える初回のワークショップでは、自然や食の豊かさ、民間活力などが魅力として挙がる一方、西九州新幹線の開業に伴う並行在来線の問題などが課題として浮かんできました。地域づくりの実践者への取材活動では、NPO法人「肥前浜宿水とまちなみの会」事務局長の中村雄一郎さんの案内で、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定される肥前浜宿を案内してもらい、美しい景観を守りながらにぎわいを創出する活動について学びました。
市民による「鹿島まつり」創設を提案

未来計画策定のワークショップでは、鹿島市の魅力と課題、これまでの活動で学んだことをあらためて整理。自分たちが望む鹿島市の未来像を「みんなが楽しめ、魅力あふれるまち」とし、そこに向かうための道筋として「地域資源を生かしたまち」「古い町並みが残り、景観が美しいまち」「子どもからお年寄りまでが笑顔で過ごせるまち」の3項目を描き、それをどう実現していくか具体的なプランを考えました。
酒造業や特産のミカンなど現存する地域資源を生かして、二十歳になったら飲める酒造りの体験と、清らかな水のみかんサイダーを発案。景観美を誇る酒蔵通りの空き家をフリースペースに活用し、定住・交流の仕組みづくりも考えました。「笑顔で過ごせるまち」については、人にやさしい道路整備などを進め、歩いて健康づくりを促すほか、鹿島の魅力である「民間活力」を発揮し、市民が主体となった「鹿島まつり」を開くことなども提案に盛り込みました。
こうして完成した計画の名称は、これから進化していく鹿島の姿を思い浮かべ、「KASHIMA evolution plan ~シン鹿島、進化します~」に決めました。

■公共交通の利便性維持が課題
塾生12人が練り上げた未来計画のプレゼンテーションは12月22日、鹿島高校大手門学舎で行い、松尾勝利市長に提案しました。
プレゼン用ソフトを使って、これまでのワークショップや取材活動などについて紹介。「人口の減少と、鉄道をはじめとする公共交通機関の利便性維持は、特に重要な課題」と訴え、今ある魅力を生かしつつ課題を克服するためのアイデアを示しました。
松尾市長は「鹿島は鹿島なりの良さがいっぱいあることを、今回の活動を通じて見つけてくれたことは、非常にありがたい」と講評を述べました。
提案書KASHIMA evolution plan ~シン鹿島、進化します~
【鹿島市の現状】
鹿島市は有明海に面し、国際的に重要な湿地として「ラムサール条約」に登録された干潟が広がる。多様な生物が生息し、「日本一」とされる干満差を利用したノリやカキの養殖が盛んに行われている。山間部では多彩な品種のミカン畑が連なり、江戸時代の宿場町の風情が残る地域もある。地元の酒蔵で造られた日本酒も有名だ。市民有志が立ち上げた「ガタリンピック」や「酒蔵ツーリズム」は佐賀県を代表する催しになり、世代交代を経ながら取り組みが続けられている。

一方、市内では少子化や若者の市外への流出が進み、子育て環境の充実や就業場所の確保が求められている。2022年9月の西九州新幹線開業に伴い、特急の運行本数が大幅に減るなど、公共交通の利便性の確保も課題になっている。これらの魅力や課題を踏まえ、思い描く地域の未来を実現するためのアイデアを考えた。
プラン❶「20歳になったら飲める酒」造り
未成年者を対象に原料の米作りから仕込み、瓶詰めまでを体験してもらう。市内の酒蔵や農家が手ほどきする。
プラン❷清らかな水の「みかんサイダー」
日本酒に使われる清らかな水と特産のミカンで目玉商品を作る。地元の飲料メーカーと高校生のノウハウ、アイデアも生かす。
プラン❸空き家を「フリースペース」に
創業意欲のある若者に空き家を貸与。使途を限らず、チャレンジできる環境をつくる。建物の改修費や初期費用の補助制度も設ける。
プラン❹歩いて健康づくり
歩道や街灯の整備を進め、市内の登録店舗などを「休憩所」として開放する。
プラン❺移動手段の維持・充実
駅前で物産市を開き、鉄道を身近に感じてもらう。鉄道とバス、タクシーの乗り継ぎを便利にし、目的地までの移動手段も分かりやすく案内する。
プラン❻「鹿島まつり」の開催
市内各地の祭りや伝統芸能を披露。募金や寄付、ふるさと納税を活用し、市民が協力して開く。

経験と発想 融合してまちづくりを
しっかり勉強してこられて、提案してもらったことに感謝をしたいと思います。鹿島は自然が多く、本当にいい所なんですよ。食べ物もおいしい。若い人たちはよく「都会はいいね」と言うけれど、鹿島は鹿島なりの良さがいっぱいあります。今回の活動で、皆さんがそれを見つけてくれたことは、非常にありがたいです。
9月に西九州新幹線が通って、このまちの列車のダイヤが大きく変わりました。通学で通っておられる高校生もいっぱいるでしょう。不便さをこれからどう克服していくのか、利便性をどう保っていくのかということを考えなければいけません。また、人口は2万8千人を切っており、このまちをどう支えていくのかということも重くのしかかった課題です。
行政に携わる人間がこれからの未来を考えなくてはいけないのですが、10年後、20年後、30年後は皆さんが現場に立って、このまちを支えていく立場になります。今日皆さんからいただいた意見は、今後のまちづくりにちゃんと生かしていかなければいけないと思っています。
お酒を自分たちで造り、二十歳になったら飲めるような体験という提案など、今回の提案には、若い人らしい素晴らしい発想を感じました。われわれの経験と、若い皆さんならではの発想と、互いを融合して一緒にまちづくりを考えていけたらいいなと思います。
塾生の感想・鹿島高校 大手門学舎2年

吉田 蓮さん(商業科)
鹿島の未来を考え、プランを出すことはとても難しく、貴重な経験をすることができて良かったです。自分たちの提案が一つでも採用されればうれしいです。

大塚 智菜津さん(商業科)
鹿島の魅力を多くの人たちに知ってもらうことや、課題を解決する方法を考えていくことが楽しかったです。これからも魅力を伝えていけたらと思います。

榮田 竜介さん(商業科)
こうしたらもっと鹿島をよくできるのではないかと考え、具体的に提案できました。今後さらに鹿島に関わる活動ができたらいいなと思いました。

川下 倖子さん(食品調理科)
提案した中で、「二十歳になったら飲める酒造り」は私も体験したいなと思いました。さが未来発見塾で学んだことをたくさんの人に知ってもらいたいです。

山岡 颯太さん(商業科)
鹿島の名産品や知られざる魅力のある食べ物を、しっかりと学ぶことができました。魅力をここだけでとどめずに、どんどん広めていきたいと思いました。

松山 隼人さん(商業科)
地元・鹿島市の魅力を自分たちが極めていかないといけないと気付くことができました。次は自分たちが知らない人に伝えていこうと思いました。

今村 遥さん(食品調理科)
活動を通して、鹿島市に住んでいても気付かなかった課題や魅力に気付くことができました。提案が一つでも実現されたらうれしいです。

竹井 伸子さん(食品調理科)
鹿島のおいしいミカンと水を合わせて清らかな水のみかんサイダーを生産・販売したいです。鹿島市に足を運んでもらうきっかけになればと思います。

卜部 太翔さん(商業科)
鹿島市の魅力を残しつつ課題を克服していければもっといい町になるはずです。これからも鹿島の魅力を広める活動を続けていきたいです。

赤木 千咲さん(食品調理科)
鹿島市にはたくさんの魅力があるので、魅力をさらに広げていって、課題を解決しながら、さらによい鹿島市になっていってほしいと思います。

馬場 正裕さん(商業科)
住んでいても気付かない魅力にあふれている一方で、多くの課題もあり、このような形で地元の課題解決に向けて提案できて、とても良かったと思います。

朝原 竜成さん(商業科)
隣の嬉野市に住んでいて、鹿島について深く考えることはありませんでした。この活動を通して鹿島の魅力や課題を知ることができ、良かったと思います。