30年以上にわたってハウスミカンの生産量日本一を誇る佐賀県。その中心となるのが、自然豊かな唐津・東松浦地域だ。冬季の日照不足など、気象条件の不利を、ハウス栽培で乗り越えた歴史がある。しかし、農家の高齢化や人手不足などの影響により、ハウスミカンの栽培面積が減少してきている。
「唐津地域果樹産地構造改革協議会」では、5年ごとに唐津・東松浦地域の果樹農家を対象にアンケートを実施。調査結果では、後継者がいなくて困っている農家や、高騰する燃料費に悩まされる経営状況など、さまざまな課題が洗い出された。
こうした課題を受けて協議会では、引き続き産地を維持・発展させるため、今後10年間の計画を立て、将来を見据えた新たな品目・品種の推進や、新技術の導入による高品質安定生産の推進、後継者の育成などに取り組むこととしている。
新たな品目・品種の推進の柱となるのが、現在高単価で取引され、今後の佐賀県のかんきつの一翼を担うことが期待される「佐賀果試35号」だ。佐賀果試35号は、「西之香」と「太田ポンカン」を掛け合わせた品種。その中から糖度などの一定の基準を満たしたものがブランド名「にじゅうまる」として販売される。開発に20年以上の歳月を費やし、2021年に初めて市場へ出荷された。それ以降、唐津・東松浦地域でも徐々に栽培農家が増加している。
佐賀果試35号の特長は、何といっても食味に優れていること。ぷちっとした果肉の食感や口いっぱいに一気にあふれるジューシーな果汁など、市場からも高評価を受けている。
また、貯蔵性にも優れており、他産地の中晩柑(ちゅうばんかん)との競合を避けて販売できることから、高単価での販売が見込める。無加温での栽培のため、ハウスミカンに比べて燃料費の心配もない。
今年初収穫を迎えた若手生産者の谷口朋之さんは「味の評判も良く、高単価で安定しているにじゅうまるには、大きな期待を寄せている。自分はミカン農家の3代目。次の世代へこの産地をつなぐために自分たちの世代の課題にしっかりと向き合いたい」と話す。
生産技術はまだまだ試行錯誤が必要というが、産地を未来につなぐ希望が、確実に実っている。
(東松浦農業振興センター)
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15回にわたり紹介してきた「未来につなぐ さが中山間地域の挑戦」は、今回で終わります。