佐賀新聞社は、小城市の「まちづくりを語ろう会」を同市小城町の「小城蒸溜所」で開いた。各地で地域振興に携わる5人に江里口秀次市長を交え、市の魅力やそれぞれが直面する課題、将来への期待などを熱く語り合った。(市原康史、撮影・山田宏一郎)
■出席者
土井容子さん(57)芦刈集落支援員
江口尚毅さん(42)こども食堂「からふる」代表
大石絢子さん(41)農家民宿「いやしの宿ほのか」
江頭正秀さん(62)小城観光まちづくりプロジェクト合同会社代表
濵野昌志さん(52)西日本高速道路九州支社地域共創担当部長
江里口秀次・小城市長
■進行
桑原昇・佐賀新聞社編集局長
-自己紹介を兼ね、皆さんが取り組んでいることを語ってほしい。
土井 芦刈町を中心とした集落支援員として、市役所と連携しながら地域活性化に向けた方策を考えている。まだ始まったばかりで手探りだが、昨年12月には住民が集まってワークショップ「芦刈の未来を語ろう」を開いた。2月にも開催する予定。最終的に、みんなでまちづくりの活動ができればと考える。
江口 2016年7月に県の指定を受けた医療的ケア児に対応した未就学児の「児童発達支援」、就学児の「放課後等デイサービス」の事業を立ち上げた。18歳以降は卒業して利用できなくなっていく中で、成人でも利用できる日中一時支援と移動支援にも乗り出した。日本の経済情勢が悪くなったことを受け、こども食堂を始めることに。「地域に必要だよね」という声に対応していたら増えていった。
大石 小城町石体(しゃくたい)地区で家族と農家民宿「いやしの宿ほのか」を営んでいる。私の役職は「お嫁ちゃん」。平日は会社員として働きながら、石体をたくさんの人に知ってもらうための活動に取り組んでいる。昨年9月、地区に伝わる伝説を基にした創作劇「約束の地」を地域の人が役者となって上演したら、350人超の観客があった。
江頭 小城蒸溜所を拠点にした「小城観光まちづくりプロジェクト」は、観光とまちづくりを融合した取り組みだ。歴史的建造物などまちの景観を形成するようなシンボル的な建物をうまく活用し、次の世代につないでいこうというもの。小城蒸溜所は、酒造りを外部に委託された小柳酒造の酒蔵だ。国登録有形文化財、22世紀に残す佐賀県遺産でもあるが、われわれはここでクラフトジンを製造するなどして新たな価値を生み出している。
濵野 小城市が進める市民共創のまちづくりに参加している。佐賀の高速道路事務所の所長をしていた2018年4月に小城スマートインターチェンジが開通したのがきっかけ。今では会社でも地域共創に特化した仕事をしており、九州、西日本各地で高速道路を起点としたまちづくりに関わっている。その原点が小城市だ。
-活動の中で見えてきたものがあるはず。
土井 結婚で芦刈に来たが、住んでみると人の温かみがあって子どももすくすくと育った。中に入れば入るほど魅力がある町だなと感じる。いろんな人に話を聞いて、活性化策を見つけることができれば。お米とノリだけではない。もっともっと良いところを見いだしていきたい。
江口 こども食堂の運営に牛津の皆さんが協力してくれる。特に学校。牛津の小中学校はチラシを快く置いてくれるし、牛津高校の生徒さんもボランティアに来てくれたりする。こども食堂をきっかけに、地域の方々が集まる場所になればいい。
大石 福岡出身で石体に嫁いで10年。舞台劇をつくる際に不安もあったが、「小城の人たちは地元意識が強い。地元のことをやればきっと協力してくれる」とアドバイスを受けた。本当にそうだった。舞台劇を通して人がぐっとつながったと感じる。
江頭 まちづくりは人づくり。いい資源があっても、うまく使うには人の力が必要だ。小城は、天山があって町並みが広がり肥沃(ひよく)な平野から有明海へつながる。山だけ、海だけでなく、自然が豊か。市民には小城の地勢的メリットをもう少し意識してほしい。
-濵野さんは福岡市在住だが、小城が持っているポテンシャルをどう思うか。
濵野 ようかんの店がこれだけ集積しているところは見たことがなく、ポテンシャルを感じた。市民参加で地域をアピールする商品を開発するプロジェクトに参加したが、そこで生まれたヒット商品が一口ようかん「オギキューブ」。20年9月から長崎自動車道金立サービスエリアで販売しており、いまだに売れている。もともとある地域資源を磨き直していけば、価値は生まれる。
江里口 私のまちづくりに対する基本理念は「不易と流行」。時代とともに変わっていくものと、変えてはいけないものがあるということ。まず、住んでいる市民が安心して暮らせるまちでなければいけない。一方で、皆さんの話を聞いていて、合併18年目で小城市も変わってきたなと感じる。これからは、各自で作り上げているネットワークを広げていくことが大事になると思う。
-活動を通してそれぞれ課題もあると思う。克服していくための考えを。
土井 今まさに芦刈の皆さんに聞き取りをさせていただいているが、良いことも悪いことも熱っぽく話される。高齢化対策をどうするかという危機意識もあれば、「芦刈は団結力があり、スイッチが入れば強い」とポジティブな意見も。手探りで課題がつかめていないが、「芦刈をどうにかしよう」と考える方たちと一緒に取り組んでいきたい。
江口 こども食堂について言えば、牛津地域の子どもたちは来てくれるが、本来はもっと広範囲の支援でなければいけないと思う。市役所でお弁当を配ることができたら、市内各地から人が集まりやすい。ただ、その場合は弁当の数が必要になるため、うちだけでの対応では難しい。
大石 就職などで県外に出て行く若者をつなぎ留めたい。小城市を、石体を魅力ある場所にするにはどうしたらいいのか。単に田舎暮らしが素晴らしいと訴えるのでは駄目。最新技術と田舎の暮らしを組み合わせた、新しい暮らし方もあるということを示せないかと考えている。
江頭 増え続ける空き家をどう活用していくかという問題は、今後の地域課題になっていくと思う。お荷物と見るのではなく、ある意味で資源ととらえてまちづくりに生かす。どんな味付けをすれば価値を生み出せるか、それを考えることが重要ではないか。
濵野 地域をデザインする力を持つ人材がもっと育ってほしい。新しいものを知っているか、知っているだけでなく応用して地域に取り込めるか。よそでやっていることでも、小城ならではの提案にできる若い人材だ。そのためには、新しいことにチャレンジできるまちであること。それが若者の関心を引きつける。
江里口 課題というものは皆で共有して解決することが大切だ。共有する先は行政であったり、「人」とつながるネットワークであるかもしれない。小城市には人がいるし、多くの資源もある。皆さんそれぞれがストーリーを描きながら、取り組みを頑張っていただきたい。