政府は、感染症法上の分類で2番目に危険度が高い「2類」よりも厳しい措置を取れる新型コロナウイルス感染症について、季節性インフルエンザと同等の5類への引き下げも視野に、見直しの議論を開始した。
しかし、国内の新規感染者数は拡大傾向で「第8波」の様相だ。オミクロン株派生型「BA・5」からさらに枝分かれした「BQ・1」への置き換わりも進み、インフルエンザと同時流行の可能性もある。政府は当面は今の分類を維持するとしているが、人の移動や交流が増える年末年始を前にまずは第8波を抑え込む対策を優先すべきだ。
感染症法はウイルスなどを感染力や症状の程度により原則1~5類に分類し、実施できる措置を規定。2類は結核や重症急性呼吸器症候群(SARS)などだ。新型コロナは当初2類相当だったが、後に外出自粛要請など最も幅広い措置が可能な「新型インフルエンザ等感染症」と位置付けた。
BA・5による今夏の第7波では、東京、大阪の60歳以上の致死率がインフルエンザと同レベルまで下がり、この傾向は続いている。そのため経済活性化を重視する専門家らが、5類相当に変えるべきだと主張するのにも一定の論拠がある。
5類になれば感染者への外出自粛要請や就業制限、入院勧告がなくなる。コロナ感染者とほかの病気の患者を厳格に分ける必要もなくなり、幅広い医療機関が入院や外来診療に対応できるようになって医療逼迫(ひっぱく)が防げる。主な施策だけで約17兆円にも上っているコロナ医療への国費支出が圧縮できれば、国の厳しい財政も一息付ける。うまくいけば、これらメリットが期待できるだろう。
一方で、今は原則全員公費負担の医療費、治療薬、ワクチン接種は、5類になると自己負担が生じる。濃厚接触者の特定や、コロナ対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言などもできなくなる。今後、強い感染力を持った新たな変異株が登場した場合には、緊急対応が遅れる心配がある。
政府は、第8波の推移を見極めつつウィズコロナの日常への「出口」を探っているのだろう。だが、その際はメリット、デメリットを国民に十分説明し丁寧に進めるべきなのは言うまでもない。
海外では欧米などがコロナ対策の諸規制を解除し、一足先にウィズコロナへの本格移行が進んでいる。背景には、コロナによる死者、重症者が以前より減ったことに加え、ワクチンや治療薬の普及で感染再拡大への備えが充実したことがある。
こうした状況を受け日本でも、経済再生を期待する経団連や、医療機関、保健所の負担を軽減したい知事らもコロナの分類見直しを求めている。しかし第8波に直面する今、懸念材料も多い。
1年前も2年前も冬に流行の大波が襲ったが、今は水際対策緩和や全国旅行支援で行楽地や繁華街がにぎわい、防御は緩い。一方、国内で累計5万人を超えたコロナの死者の6割以上が今年亡くなった人たちで、それは感染力が強いオミクロン株が高齢者に流行した影響だという。コロナは弱毒化しても、感染拡大すればお年寄りには危険だ。
そもそも岸田文雄首相はコロナの分類見直しに10月まで慎重姿勢だった。それが第8波が現実化した今、なぜ前向きになったのか。まず国民に納得いく説明をしてほしい。(共同通信・古口健二)