嬉野市の和多屋別荘で個展を開催中の書家・山口芳水さん(37)=佐賀市出身=は、書道教室の指導者としての顔と、書で多彩なパフォーマンスをする表現者としての顔を併せ持つ。技術だけではない美しい字を追求する山口さんに、少年時代から今までを振り返ってもらった。

 

 

一、書は生活の一部

茶室に飾られた作品は、「愛」がびっしり書き込まれている=嬉野市の和多屋別荘

 歯を磨いたりお風呂に入ったりするように、書道は生活の一部だった。県書道教育連盟顧問・県書作家協会顧問の山口流芳さんと県書作家協会会員の芳林さんを両親に持ち、5歳から習字を始めた。
 小学生になると、両親は書道教室で帰りが遅く、帰った家は暗かった。いつも紙と手本が用意され、来る日も来る日も字を書いた。書くのが好き、嫌いというより、“当たり前”の感覚。
 決して嫌ではないけれど、テレビも見たかったし、ゲームもしたかった。友達は外で遊んでいるのに、何で僕だけ……。紙は時々涙にぬれた。それでも続けられたのは、優しくもあり厳しくもある両親の愛情を感じたから。習字で賞を取ると家族は大喜びだった。小学校の卒業文集にも、将来の夢を「書道教室の先生」と書いた。
 高校生になった16歳。両親の書道教室の助手になり、園児から小学生までを指導した。人に教えるには飛び抜けた技術が必要で、高校生の自分にはそれがなかった。うまくなる必要性を見いだし、好きでも嫌いでもなかった書道を楽しいと思えるようになっていた。

 

二、指導者であり表現者

箱庭の芸術祭でパフォーマンスする書道家の山口芳水さん=嬉野市の和多屋別荘

 大東文化大に進み、野口白汀名誉教授と出会う。野口教授の作品は、3頭身のような丸みを帯びた字で、見たことのない形だった。今まで字のバランスを美しく整えることに尽力しただけに、崩したような書き方で、しかもそれが美しいという衝撃は大きかった。しかしなぜそれを美しいと思うのか、言葉では説明できなかった。
 卒業後、佐賀に戻り、26歳で保育園や公民館で自分の書道教室を開く。子どもの頃からの夢がかなった山口さんは、子どもたちが楽しいと思える書道教室を目指した。そんな思いから、子どもたちが遊び半分で教室に来ても厳しい指導をできずにいた。
 「楽しい」とは何か、時に優しく、時に厳しく指導していた両親を思い返した。指導者として、字が上達する楽しさを伝えなければならない。字は心を映す鏡になる。内面を磨くことで字が美しくなるように、あいさつや礼儀作法も指導した。本棚に叱り方や褒め方の本がどんどん増え、自分も指導方法を勉強しながら生徒との信頼関係を築いていった。
 33歳の時、佐賀市の山口亮一旧宅などで自身初めての個展を開いた。書道関係者からは好評だったが、一般の来場者に「見ててキツイ」といわれてしまう。力作をそろえただけに憤りを覚えたが、時間をおいて考えると「ただ技術を見せびらかしていただけではないか」と思えてきた。
 それから街なかの壁の落書きや子どもの字が目に付くように。そこには「うまく書こう」という作為のない、技術を越えたメッセージ性があった。学生時代、野口教授の作品を見て感じたのはこれではないか。字を正しく書くだけでなく、表現としての「書」を意識するように。字のルーツである絵に関心を持ったり、伝えたい思いを言葉にするため歌詞を書いたり、飲食店の看板の字をデザインしたり。字は自分からあふれ出る言葉を、自分の手で表現できる最良の手段だった。

 

ラウンジに展示されている「愛」のパネル=嬉野市の和多屋別荘

 

三、新しい夢

 いくつもある字の中で、「愛」が一番好きだという。人が人を思う気持ちは世界共通で、それを象徴しているものだから。嬉野市の和多屋別荘で開催中の個展(6月25日まで)も「愛」がテーマ。旅館のラウンジには「愛」の1字が大きく書かれたパネルがつるされ、茶室には「愛」を羅列した縦90センチ、横3・5メートルの作品が展示されている。
 書道教室での指導に重点を置いてきた山口さんは、「ずっと夢の中にいた感覚だったが、いつか県立美術館で個展を開きたい」と、この個展を機に新しい夢を見つけた。

 

クリエイターを目指すみなさんへ

 まずは自分を知ってもらうこと。そして持てるだけの夢を持つこと。そしたら必ず応援してくださる方、助けてくださる方が現れる。自分を信じ、諦めずにやり続けてほしい。続けている限り諦めたことにはならない。
 最後はお金でも評価でも結果でもなく、後悔なくやって良かったと思える。そして、たくさんの方々を愛し愛されていたということに自然と気付くはず。

 

やまぐち・ほうすい
 1980年、佐賀市生まれ。父は県書道教育連盟顧問・県書作家協会顧問の山口流芳さん、母は県書作家協会会員の芳林さん。幼少期から書道に励み、16歳から両親の書道教室の助手として指導者の道を歩み出す。高校卒業後に上京し、大東文化大学で名誉教授の野口白汀さんに師事。大学卒業後に帰佐し、両親の書道教室での指導を経て26歳で独立、保育園や公民館で書道教室を開く。2年前、佐賀市神園1丁目にシロクロ書道教室を構え、3歳から80代まで幅広い年齢層に指導する。書道パフォーマンスや書道デザインなど活動の幅を広げ、嬉野市の和多屋別荘で6月25日まで個展を開催中。シロクロ書道教室の問い合わせは、電話0952(97)7447。

 

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