7月1日、私たちが乗ったモンゴル航空の飛行機は成田空港を出発し、約4時間半でウランバートル国際空港に着陸した。ほとんどがモンゴル人と思われる満席の機内では、母国への無事な着陸に一斉に拍手喝采が起きた。肝臓専門医である私と同行支援スタッフ2人の3人は、ウランバートルと佐賀のロータリークラブ、佐賀大などが共同で取り組む肝炎・肝臓がん(肝がん)対策事業のためにモンゴルを訪れた。
広大で豊かな自然にあふれ、牧歌的で、どこか懐かしい感じのするモンゴルでも抱える主な健康問題はがん対策。特に肝がんの死亡率は世界で長年、断トツ1位である。
肝がんは放っておくと命に関わる病気だが、早期発見と治療により予防は可能だ。佐賀県も死亡率全国ワーストが長年続いていたが、治療の劇的な進歩と啓発活動の効果で死亡率は低下し、その手法は「佐賀方式」と呼ばれ世界でも注目されるようになってきた。モンゴルでの主な肝がんの原因は、佐賀と同じくC型、B型肝炎であり、佐賀方式を導入することで肝がんを減らせるのではないかという構想が持ち上がった。
モンゴル保健大臣から佐賀大学長への協力要請があり、佐賀大肝疾患センターが正式に協力を始めたのが2018年。センター長を務めていた私はこの年に初めてモンゴルを訪れた。5回目となる今回は、コロナ禍の影響で3年ぶりの訪問となる。
今回訪れるのは、モンゴルでも最も肝がん死亡率が高いスフバートル県。私たちの活動は首都ウランバートルから地方に広がりつつあり、同県では昨年の肝炎医療コーディネーター養成を皮切りに佐賀方式が導入され、約3500人の新規の肝炎ウイルス陽性者が見つかっている。
ウランバートルから約800キロも離れた同県への、これまでで最長の14日間の旅が始まった。
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新型コロナウイルスの感染拡大で中断していた、佐賀大などによるモンゴルでの肝炎対策事業が5月に再開された。早期発見から治療につなげる「佐賀方式」を世界に広めようと奮闘する江口有一郎さんが、首都から遠く離れた地方での活動や大草原が育んだ豊かな文化、かつての日本人に似た価値観を持つモンゴルの人々を紹介する。毎週月曜掲載、全5回。
【プロフィル】
えぐち・ゆういちろう 医療法人ロコメディカル(小城市)副理事長。1969年、久留米市生まれ。佐賀医科大(現佐賀大医学部)卒。ウイルス性肝疾患などが専門。佐賀大医学部附属病院肝疾患センター長を2020年3月まで務め、佐賀県の肝がん対策の中核を担ってきた。