子どもの頃に横浜大空襲を経験した美空ひばりさん(1937~89年)は、人一倍の戦争嫌いだった。だからこそだろう。第1回広島平和音楽祭(74年)の出演依頼を二つ返事で引き受け、平和への祈りを込めた「一本の鉛筆」という新曲を圧倒的な歌唱力で披露した◆〈一本の鉛筆があれば 戦争はいやだと私は書く〉〈一枚のザラ紙があれば あなたをかえしてと私は書く〉〈一本の鉛筆があれば 八月六日の朝と書く〉。原爆で失った愛する人への思いが静かな旋律に乗って胸に染みる◆ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、あの日から77年目を迎えた。プーチン大統領は核使用をちらつかせて威嚇した。一方、岸田文雄首相は核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、日本の首相として初めて演説。核軍縮の機運盛り上げを目指すが、理想と現実の溝を対話で埋める作業は容易に進まない国際情勢である◆ひばりさんは音楽祭の際、用具置き場のような場所で出番を待った。スタッフが冷房のある楽屋に誘導しようとすると「あの時の広島の人たちは、もっと熱かったでしょうね」とつぶやいたという(森啓著『美空ひばり燃えつきるまで』)◆あの時の広島を覆った原爆の熱を想像し、核兵器の怖さ、愚かさを考える日である。一本の鉛筆で一枚のザラ紙に、平和の誓いを記したい。(知)