リチャード・バックの小説『かもめのジョナサン』は、餌をとるために飛ぶのではなく、飛ぶこと自体に意味を見つけようとした1羽のカモメが主人公。スピードの限界に挑戦し、上空から急降下する練習を繰り返す。だが、その生き方は仲間に理解されず、変わり者扱いされる◆鳥は、進化の過程で翼を手に入れた。鳥がその意味を考えることはないだろう。だからこそジョナサンのように翼を持つ意味を考え、その答えを求めて飛び続けるのは格好いい◆この人の生き方も、どこかジョナサンに似ている。フィギュアスケートの羽生結弦(ゆづる)さん(27)である。きのう、第一線を退き、プロとして新たな挑戦を続けることを表明した。五輪2連覇をはじめ、主要な国際大会全てで優勝。その栄光に加え、4回転アクセルに挑んだ軌跡が人々の心を打った。満身創痍(そうい)だった2月の北京五輪を思い出す。好きなことを頑張るのをつらいと思わないことが、翼を持つ意味だと思える◆アーティスティックスイミングコーチの井村雅代さんは「三流の人は道を追う。二流の人は道を選ぶ。一流の人は道を創(つく)る」と話す。「跳ぶ」ことを追求した羽生さんはまさに一流。これからも新しい道を切り開いていくだろう。一抹の寂しさはあるが、ファンは彼の決意を尊重するはず。ありがとう、お疲れさまでした。(義)
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