朝方の喫茶店で深煎りコーヒーとトーストを頼む年配者

 ネジバナ。水槽の中のような野良仕事で汗まみれの時、草の中にひっそりと咲いているその鮮やかなピンク色とあめ細工のような形に出会うと、ふうっと体も心も力が抜ける。いのちの力に大小はないのでしょうね。

 北海道、那須、藤沢をめぐる旅をした。行く先々に会いたい人がいて、ザックを背負って歩いた。札幌はポプラの綿毛が舞い、人々の憩う地域に根ざした喫茶店や緑あふれる大学を楽しみ、十勝では放牧の酪農や広大な畑作などの農家を訪ねて、話に耳を傾けた。

 人口が増える東川町で知りたかったのは、地域の試みではなく、住んでいる人の表情と会話、そして光景だった。都会や村でも失われかけている生きているリアリティと誰でもがそれへのつながりを感じられる空気を、僕が感じられるかどうかだった。

 那須では、名のある学校を出たり、世界を経験してきた若い人に自分で生きる力をつけさせる住み込み塾に泊まり、夜まで語り合った。黒磯の若い人が活躍する界隈(かいわい)では食と農、暮らし方や資本主義のことまで話が盛り上がった。

 自分の今を真摯(しんし)に生きている人との出会いは魂を揺さぶる。2年ぶりの旅で思った。旅で人に会おう。

 (養鶏農家・カフェ店主 小野寺睦)