第1次世界大戦(1914~18年)の際、「戦争を終わらせるための戦争」というフレーズが流布した。その後の歴史をみれば、言葉通りにはならなかった。どんな事にももっともらしい理屈はつけられるが、人の命を奪う戦争だけは正当化できない◆ロシアはウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」と批判、市民への抑圧を終わらせるためとして侵攻を始めた。プーチン大統領の強硬な姿勢をどうやって崩すか。糸口さえ見いだせないまま、戦闘は長期化している◆直木賞を受けた今村翔吾さんの『塞王(さいおう)の楯(たて)』は矛となる鉄砲と、楯となる城の石垣を題材に描かれている。威力を高める鉄砲に対し、「塞王」と呼ばれた主人公は誰にも崩されない石垣が戦のない平安をもたらすと信じて技術を磨く◆先月、佐賀市で講演した今村さんの「希望」が記憶に残る。「世界は戦争を繰り返してきたが、人類は滅んでいない。ぎりぎりのところで止めてきた自制心は、どんな楯よりも強い。誰かが終わらせてきた歴史、そこに希望をみる」。ウクライナ情勢に触れ、人間の力を信じたいと話した◆戦争は始めるよりも、終わらせる方が難しいといわれる。それでも、先人たちは終わらせてきた。国際社会の指導者には一日も早く、最強の楯となる自制心を形にしてほしい。「七夕」の願いである。(知)

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