新型コロナウイルス対策で政府、自治体などの力を最大限引き出す知恵と行動力を持つのはどの政党、候補か。論戦を通じしっかり見極めたい。

 岸田文雄首相(自民党総裁)は、政府がこれまでに実施したコロナ対策の検証を踏まえ「内閣感染症危機管理庁」、米疾病対策センター(CDC)に倣う専門家組織「日本版CDC」の創設など、感染症対策の司令塔機能強化策を打ち出した。

 「これまでの対応を徹底検証し抜本強化策をまとめる」と自身が昨秋発言したことを参院選直前に具体化させた。だが昨年9月、自民党総裁選の公約で司令塔創設を初表明してからは9カ月が過ぎ、その間にコロナ流行はある程度落ち着いた。

 一方で有識者会議の検証は、長期化した行動制限、批判を受けた「アベノマスク」配布など安倍・菅政権の施策の是非の判断を避け、1カ月で結論を出す突貫作業だった。

 目の前のパンデミックに対応するはずが間に合わず遅きに失した司令塔創設を、「次の感染症危機」に向け必要と有識者からお墨付きをもらうことで、参院選の目玉政策に仕立て直したのが実態ではないか。

 司令塔機能強化は立憲民主党など野党も参院選公約に掲げており、争点化を封じる「抱きつき戦術」の側面もある。それも踏まえつつ私たちが論戦で見定めるべきは、この2年半に露呈した医療、保健所機能、水際対策の弱点を司令塔創設で改善できるのか否かだ。

 その司令塔も要は既存組織の切り貼りであり、内閣官房と厚生労働省の「二元管理」は続く。さらに平時から有事への態勢切り替えはスムーズにいくのか。組織はあくまで「入れ物」だ。そこに結集する人間が対策を繰り出すのであり、それをリードできる政治の力こそが今、問われている。

 首相は、感染症危機時に医療機関へ病床確保を促す強い権限を国や都道府県に与える感染症法改正も表明。だが有識者検証で「身近なかかりつけ医などに相談・受診できる体制確保に時間を要した」とコロナ医療の問題点を指摘されながら、政府の強化策は「かかりつけ医」の活用に触れない。

 立民は「重症化リスクが高い人が確実に医療を受けられる『コロナかかりつけ医』制度」の創設を公約している。政府、自民党は、かかりつけ医の制度化に慎重な日本医師会に配慮したと思われ、踏み込み不足と言われても仕方あるまい。

 さらに言えば、有識者検証が指摘したように、新型インフルエンザ流行時の対策の教訓を踏まえた2010年の厚労省専門家会議提言は、今回の強化策のエッセンスをほぼ網羅していた。司令塔機能強化、国と自治体や医療現場との連携・役割分担の明確化、国産ワクチンの生産体制強化、そして平時からの危機管理体制整備―などである。

 10年の月日を無駄にせず提言を実行していれば、コロナで被った人的・経済的損失はより少なくて済んだかもしれない。立民は、国会に調査委員会を設置して検証機能を強化すると公約したが、問題は実行力の有無だ。

 そもそも首相は、なぜ国会閉幕を待って司令塔創設などを発表したのか。国の重要政策は国会審議に付すのが筋だが、野党の追及で守勢に立つのを嫌ったとすれば残念だ。「良識の府」とされる参院の選挙では、堂々と真正面からの論戦を望む。(共同通信・古口健二)