参院選では安全保障政策が重要な争点だ。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本の安全保障への不安が国民の間に広がっているためだ。

 主要各党が防衛力強化の方針を打ち出し、自民党は相手国の領域内を攻撃できる「反撃能力」の保有を公約に掲げる。想定している相手国とは中国と北朝鮮だろう。

 だが、気になるのは防衛力の強化が強調される一方で、各党とも外交戦略への言及が乏しく、具体性を欠いていることだ。防衛力だけでは国家の安全は守れない。相手国との対話や地域の緊張を緩和する国際協調の構想が同時に求められる。各党には外交を重視する総合戦略を示し、活発な論戦を行うよう求めたい。

 防衛費の大幅増額を公約に掲げたのは自民党と日本維新の会だ。自民党は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防予算が対国内総生産(GDP)比2%以上を目標にしていると言及し、「来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」と明記した。

 事実上、2%以上を公約したものだろう。高市早苗政調会長は「必要なものを積み上げれば10兆円規模になる」と述べた。2022年度当初予算の防衛費は約5兆4千億円で、ほぼ倍増となる。

 ところが岸田文雄首相は公示前日の党首討論では「数字ありきではない。何が必要なのか、中身をしっかり詰めていく」と述べた。自民党の方針はどちらなのか。岸田政権は年末に外交・安保政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書を改定する。首相は明確に説明すべきだ。

 自民党の公約は武力攻撃への抑止として「反撃能力」の保有を明記した。防衛力強化を巡る論点は多岐にわたる。日本の安保政策の基本である専守防衛との整合性、巨額の財源の手当て、日米同盟下での役割分担など議論すべき課題は多い。

 防衛力の偏重は、軍拡競争に陥る懸念があることも忘れてはならない。衝突を防ぐための対話外交こそが重要になる。

 だが、岸田首相は就任直後の昨年10月に中国の習近平国家主席と電話会談しただけで、それ以降、首脳対話は途絶えている。20年に予定されていた習主席の国賓としての来日も棚上げになったままだ。米中対立の中でも、バイデン米大統領と習主席がオンライン会談を行っているのと比べても、首脳間で意思疎通を図る戦略が見えてこない。

 今年9月には日中国交正常化から50年の節目を迎える。議員外交も含めて対話の道を探り、地域の緊張緩和に向けた努力を尽くすべきだろう。

 主要政党では、維新が特に前のめりだ。「積極防衛能力」を掲げ、GDP2%を目安にすると明示。米国の核兵器を日米で共同運用する「核共有」の議論開始を主張する。

 これに対して、与党の公明党は「予算額ありきではなく、真に必要な予算の確保を図る」と主張、自民党と一線を画す。立憲民主党は「総額ありきではなく、めりはりのある予算で防衛力の質的向上」を、国民民主党は「専守防衛に徹しつつ、必要な防衛費を増額」すると主張する。共産、社民両党は増額に反対する。

 相手国の攻撃意思を減らせば脅威は低下するというのが安保政策の基礎だ。外交の重要性はそこにある。国民の不安に乗じた防衛力強化ありきの議論は慎むべきだ。(共同通信・川上高志)