「47歳、まだまだボウヤ」(c)櫻井孝宏/KADOKAWA

 声優として活躍する著者がつづった初のエッセー集。人気作に多数出演し、声を聞いたことがあるという人も少なくないのではないだろうか。そんな著者が、エッセーという形で自分のルーツと向き合っていく。

 この著者のエッセーに対して、文章を“読んでいる”というよりも著者の話を“聞いている”という感覚に近いものを覚えた。一つ一つの話が小話みたいになっているというのもあるのだろうが、何の役でもない櫻井孝宏さんという一人の人間として、着飾っていないありのままの素直な言葉で書かれているからだろう。長年の趣味のレコード収集やだて眼鏡をかけていることなどの普段の日常の話から、家族の話に仕事の話、声優になりたてだったころの話・・・自身の生き方や価値観を著者本人がとても大切にしていることが読んでいるこちらにもひしひしと伝わる。

 今回著者が担当したのは文章の執筆だけではなく、作中のイラストも担当している。著者自身、過去に出演したアニメ内で原画を担当した経験がある。この味のあるイラストがエッセーをさらに面白く引き立てているように感じる。

また、このエッセーのために「執筆取材」をした際に撮影された、かつて通っていた小学校や、実家で両親と一緒に撮影した写真も収録されている。これらの写真を見ていると、読んでいるこちらも人生を振り返ってみたくなるのが不思議だ。

 著者はあとがきで「イスカンダルへ行くならまだ練馬」(本文より抜粋)が現状の答えだと言っている。10年後や20年後、この答えはどう変化しているのか、楽しみである。

(KADOKAWA/1760円)

(コンテンツ部・池田知恵)