東京電力福島第1原発事故で避難した住民らが国と東電に損害賠償を求めた4件の訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は国の賠償責任を否定する初の統一判断を示した。津波の被害は事前の試算を大きく上回り、仮に国が規制権限を行使して、東電に防潮堤の設置などを命じていたとしても、事故を防げなかった可能性が高いとした。

 地震防災対策に取り組む政府の地震調査研究推進本部は2002年に地震予測「長期評価」を公表し、福島沖など太平洋岸で巨大津波を引き起こす地震が発生する可能性を指摘。この予測に津波による事故発生を予見できるほどの信頼性があったか、東電に対策を取らせていれば事故を防げたか―などが争われた。

 原発で重大事故があれば、想像を絶する被害をもたらす。長期評価というきっかけがあったのに対策を尽くさなかった責任を軽んじてはいないか、疑問を拭えない。原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、積極的な活用を推進するなら、避難計画も含め、考え得る限り万全の対策を講じなくてはならない。

 併せて原発事故からの避難を巡る賠償の在り方を抜本的に見直す必要がある。訴訟を通じ、国の指針に沿って東電が進めてきた賠償は生活基盤喪失など、長期の避難で複雑・多様化する被害を十分にカバーできず、実態に即していないことが浮き彫りになっている。

 4訴訟は13~14年に住民らが避難した各地で起こし、高裁段階では福島、千葉、愛媛の3訴訟で国の責任が認められる一方、群馬訴訟では認められず、判断が分かれていた。東電の責任と、約3700人に対する計14億円余りの賠償命令は今年3月に確定している。

 迅速な避難者救済を目的として文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が11年に賠償指針をまとめ、これに沿って東電は賠償を進めたが、額が低く抑えられたことなどに不満が高まり、増額を求めて提訴が相次いだ。

 このうち千葉訴訟で東京高裁判決は、防潮堤の設置に加え建屋の水密化などの対策も取られていれば、津波の影響は相当程度軽減され、全電源喪失に至らなかったと指摘。しかし最高裁判決は「防潮堤の設置は当時、原子炉施設の津波対策の基本とされた」とし「規制権限が行使された場合、他の対策が講じられたとは言えない」とした。

 4人の裁判官のうち1人は「想定を超える事態に対する多重的な防護の必要性は、長期評価に基づく適切な試算で認識できた」などとし、国の賠償責任を認める反対意見を述べた。東電を規制する立場だった国の責任の有無について、これで事実上の決着がついた。

 ただ急を要する課題がまだある。最高裁判決が出た4訴訟を含む7訴訟で東電の賠償責任が確定し、いずれも国の指針を上回る賠償が認められていることだ。指針では避難や被ばく検査のための費用などの基準が定められているが、そこにはない生活基盤や、ふるさとを奪われた精神的な被害が認定されたり、自主避難者に対する慰謝料が増額されたりしている。

 指針がくみ取れていない被害に司法が対応した形だ。賠償紛争審査会もようやく腰を上げ、指針を見直すべきか、専門家に確定判決の詳細な分析を依頼するという。まずは被害の実態と正面から向き合う必要がある。(共同通信・堤秀司)