「一瞬だったが、長い物語を見届けた気分」。読み終えた後、率直にそう感じた。ただこの本の感想は、読む人それぞれの価値観で全く変わってくるだろう。
歌人の穂村弘さんと、「よるくま」などで知られる絵本作家の酒井駒子さんによる、絵とたった五つの擬音とせりふで構成された絵本。表紙いっぱいに描かれた三つ編みの少女の顔を覚えておいてほしい。ページをめくる(まばたきする)間に、花に止まったチョウが羽ばたき、紅茶に入れた角砂糖は溶けていく。そして「みつあみちゃん」と呼ばれる表紙の少女に最後、ハッとさせられる。
1回目は結末に驚かされ、読む回数を重ねるうちに、時の流れの残酷さがはかなく美しいものに感じられてくる。”時間”という形のないものが、余韻を残す切り取り方で巧みに表現されており、思わず感嘆の声が漏れる。物語そのものが奥深く、静かに読み手を圧倒する説得力がある。
永遠と一瞬は紙一重かもしれない。人生の残りの時間をこれからどう生きていくか、改めて考えさせられる。私たちがまばたきをするほんのわずかな間も時は過ぎている。1秒たりとも、同じ瞬間というものはない。そう、今この瞬間も。(岩崎書店/1430円)
(池田知恵)