街の書店が減っている。ネットで注文すれば数日で届く便利な時代だが、背表紙を見ながら店内を歩く楽しさは味わえない。知らなかった作家の本を手にしたり、興味のなかった分野に目が向いたりと、書店ならではの良さがある◆直木賞作家の今村翔吾さんが「まつり旅」と題して全国行脚している。九州さが大衆文学賞から羽ばたいた佐賀ゆかりの作家。「書店に足を運んで盛り上げたい」と恩返しの旅である◆47都道府県の書店や学校など約300カ所をワゴン車で回る。佐賀県には10、11の両日に訪れ、15日にも再訪する。Tシャツにジャケット姿。何せ118泊119日の長旅であり、「自分で洗濯できるように10セットある」と笑っていた。車内にはパソコン台も設置。書斎にこもる作家の印象とはかけ離れ、行動も話しぶりも実にエネルギッシュ◆今村さんは昨秋、廃業危機にあった大阪府箕面(みのお)市の書店経営を引き継いだ。小学5年の時に池波正太郎さんの『真田太平記』と出合って以来、書店は特別な場所。池波作品とはなかなかに渋い少年だったようだが、そんな出合いこそが書店の魅力だろう◆通販サイトを開けば、購入履歴から「この本はいかが?」と薦めてくる。参考になる場合もあるが、ほとんどはお節介が過ぎる。そういう時ほど、ふらりと書店をのぞきたくなる。(知)

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