アリアケスジシマドジョウ

 佐賀平野は耕作地の広さに比べて水源が乏しく、農業用水の確保が困難であったため、古くからクリークと呼ばれる網目状の用水路が発達してきた。複雑な水路網は水生生物にとって格好のすみかとなり、全国でも屈指の淡水魚類の多様性が高い地域として知られる。

 しかし、近年の圃場(ほじょう)整備に伴うクリーク改修の影響で、希少種を含む多くの魚類にとって生息環境が悪化しているとされ、農業生産性の向上と生物多様性の保全との両立が課題となっている。

 アリアケスジシマドジョウは佐賀県から熊本県北部にかけての有明海沿岸の平野部のみに生息している地域固有のドジョウである。本種も圃場整備後のクリークでは生息数が著しく減少する。

 クリークで捕獲した個体に標識を付けて放流し、再度捕獲しては再放流し、という調査を数年かけて毎月実施した結果、多くの個体は1年で寿命を終えるが、一部は2年目まで生存すると考えられた。また、本種は6月10日過ぎ頃のクリークが増水した直後の時期に、水深が浅い場所に移動して産卵していることが判明した。

 そして、改修後のクリークでは、増水時に産卵に適した浅場がなくなってしまうため、うまく繁殖できないものと見られた。現在、淡水魚類の繁殖のための浅場の造成などが一部のクリークで試みられている。

 人間は今も昔も自然界から多くの恩恵を受けている。多様な生物を育む環境をいかに維持しながら人々の生活を豊かにしていくか、ここで暮らす私たちの叡智(えいち)が問われている。

(徳田誠・佐賀大農学部准教授)