建築用の資材、土より軽いヤシ殻などを駆使して「浮かせる」水害対策に取り組むトマト農家の吉田章記さん=唐津市石志

浸水したものの、発泡スチロールの土台が浮いて被害を免れたトマト苗=2021年8月、唐津市石志(提供)

 浸水被害からトマトの苗を守ろうと、唐津市の農家が水に浮く栽培用ベッドづくりを試みている。高さを調節できる建築用の脚を用い、ヤシ殻や発泡スチロールで軽さを徹底した土台にすることで、水に漬かってもベッド部分が浮く仕組みとなっている。

 徳須恵川と松浦川の合流部に囲まれている唐津市石志に、農業生産法人「アグリッシュ」は農業用ハウスを構える。代表の吉田章記(あきのり)さん(44)は就農して3年目の2018年から2年連続でハウスが大雨で浸水した。ハウス内は15センチほど漬かり、半数以上のトマト苗が青枯病にかかるなどして生育できなくなった。

 「水害は数十年に1度と言われていたのに…。このままだと商売としてやっていけない」。吉田さんは本格的に水害対策に取り組もうと関係機関に相談した。8月の作付け時期をずらすことも考えたが、「暑さを乗り越えないと植物は強く育たない。時期をずらせば収量も減り、経営的にも厳しくなる」と二の足を踏んでいた。

 そこで箱形の大舟で大洪水の難を逃れた「ノアの箱舟」をヒントに栽培ベッド自体を浮かせることを発想し、浮力が生まれる高さと軽量化できる対策を考え始めた。これまで地面に直接置いていたベッドには、高さを調整できる建築用の部材「スチール束」を取り付けた。土のように保水しないヤシ殻を用い、ベッドの土台を発泡スチロールにして軽量化し、栽培用ベッドとして改良した。

 ヤシ殻での栽培や、本当に浮力が生まれるかどうかなど何度も実験を重ねた。21年8月の豪雨ではハウス内に水が流れ込んだが、栽培用ベッドを浮かせることができた。ハウス内の泥水の跡はタンクが高さ29センチ、ベッドは24センチで、約5センチ浮いたことが分かったという。

 費用は約300万円で、日本政策金融公庫から全額を借り入れた。「連続でダメージを受けると体力もなく、思い切った対策はなかなかできない。借り入れの後押しで踏み切れた」と吉田さん。「浮くだろうなと、あくまで推測だったのですごく不安だった」と苦笑しつつ、「この場所で続けられる方法を考えた。周りに相談し、知恵を振り絞ればアイデアが生まれるんだなと感じた」。毎年のように猛威を振るう大雨に備え続けている。(横田千晶)