政府は、岸田文雄政権で初となる経済財政運営の指針「骨太方針」を決定した。ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的行動による国際関係の緊張を映したのが特徴で、防衛力強化やエネルギー安全保障上からの原発活用を明記した。いずれも丁寧な議論と国民への説明はほとんどないままであり、危機に便乗した予算増や原発再稼働の推進は慎むべきだ。

 方針は今後の政権運営や、編成作業が本格化する2023年度予算案の重点政策を網羅。経済運営ではスタートアップ企業の支援など、岸田首相の「新しい資本主義」に盛り込まれた成長戦略が中核に据えられた。

 一方で、ウクライナ危機などを背景に安保面の政策対応を詳述。防衛力は「5年以内」と期限を定めて「抜本的に強化する」とした。その上で防衛費は「国内総生産(GDP)比2%以上」が北大西洋条約機構(NATO)加盟国の目標になっていると例示し、日本の目指す水準と読み取れる記述となった。

 安倍晋三元首相に代表される防衛費の大幅増を求める自民党内の声が、色濃く反映された形と言えよう。岸田首相自身も先の日米首脳会談で防衛費の「相当な増額」を表明していた。

 日本を取り巻く安保環境が厳しさを増している点は否定しない。北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射などに不安を覚える国民は多い。だからといって「増額ありき」と一気呵成(かせい)に突き進むやり方は乱暴に過ぎよう。

 首相は「相当な増額」の内容を国会で問われながら、具体的に説明していない。まずその点から始めることを求めたい。

 危機感をあおって物事を進めようとする姿勢は、エネルギー政策にも見て取れる。

 ウクライナ侵攻などを受けた石油・ガスの供給不安の一方、脱炭素を進める狙いから、方針は原発を「最大限活用する」と強調。再稼働に当たっては「厳正かつ効率的な審査」を進めるとし、原子力規制委員会の作業迅速化をにじませた。

 同時に、昨年の方針にあった「(原発は)可能な限り依存度を低減」との表現はなくなった。

 政府が原発再稼働に前のめりとなり、この機に姿勢を転換させたと受け取られても仕方あるまい。首相はここでも国民の不安に応えた納得のいく説明を怠っていないか。

 政府による拙速な政策推進は、方針に入った健康保険証の「原則廃止」にも当てはまる。マイナンバーカードの普及・利用促進が目的だが、デジタル化に不慣れな高齢者の不安を軽視した進め方と言わざるを得ない。

 方針は来年度予算案の大前提となるため、防衛費をはじめ歳出拡大が不可避な各省庁の政策が並ぶ。心もとないのは増税など財源確保の具体論を伴っていない点である。

 それなのに方針は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する財政健全化の目標について「これまでの目標に取り組む」と記すのみで、年限の明示を見送った。

 安倍氏ら党内の積極財政派への配慮がここにも表れているが、健全化の姿勢後退は否めない。

 わが国の1200兆円の債務残高が将来不安の濃い影を落としている現実を直視したい。来たる参院選で岸田首相には、耳当たりの良い歳出拡大だけでなく、負担と痛みを国民に語る責任がある。(共同通信・高橋潤)