ボロボロノキの実を吸汁するベニツチカメムシ

ベニツチカメムシ

 ボロボロノキという変わった名前の植物がある。今から30年ほど前、この木の実だけを食べるベニツチカメムシという昆虫の「子育て行動」が、当時佐賀大学にいた研究者たちにより発見された。カメムシの仲間では世界で初めての確認であり、この昆虫は一躍有名になった。

 6月になると、ベニツチカメムシのメス成虫は、落ち葉の下に巣を作り、100個ほど卵をボール状に産み付け、巣の中で抱えて守る。幼虫が孵化(ふか)した後、メス成虫は巣から出て地面に落ちているボロボロノキの実を探して回る。実を見つけると針のような口を突き刺して巣に持ち帰り、子供たちに与える。

 このカメムシのメス成虫は、見上げた林冠部の景色から巣の位置を割り出すことができ、来た道をたどるのではなく、実を見つけた場所からまっすぐに巣の方向へと戻る。

 メス成虫が卵を産むのは一生に一度だけで、幼虫が巣立つと間もなく寿命を終える。幼虫は夏に新成虫となり、秋から翌年まで集団で過ごす。このカメムシは、成虫になってからの半年以上、何も食べずに過ごす。人間を含む多くの生物は、窒素分を老廃物として排泄するため、常時摂取する必要があるが、このカメムシでは、体内の共生細菌が窒素分のリサイクルに貢献しており、長期の絶食を可能にしていると考えられる。

 人も昆虫も安心して子育てができる社会や自然環境がいつまでも続いてほしいと、この時期、熟果を懸命に運ぶメス成虫を見ながら感じている。

(佐賀大農学部准教授 徳田誠)

=毎週日曜掲載