今年1月、国内で初めての「内密出産」報道がありました。出生証明書に母親の名前を記載せずに匿名で届け出る出産です。これを行ったのは、熊本で2007年に「赤ちゃんポスト」を設置した病院です。望まない妊娠で、人工妊娠中絶することができずに人知れず出産して、その日のうちに出産したわが子をあやめてしまう「生後0日の虐待死」を防ぐために始まった「赤ちゃんポスト」。

 医療が介在しない出産には危険が伴います。母体が出血多量で命の危険にさらされるかもしれません。この「孤立出産」の危険を防ぐために考えられたのが「内密出産」というわけです。確かに産婦人科の医療機関で安全に出産ができるでしょう。けれども、これには大きな問題があります。

 内密出産をした10代の女性は「妊娠出産が実母に知られると縁を切られてしまう」ことを心配していたそうです。10代の女の子はそう考えるかもしれません。ですが、母親は果たしてどうでしょうか? 娘に打ち明けられたなら、受け入れてくれたのではないでしょうか。自分の娘がそんな大変なことを実の母親にも隠して、人知れず出産したことを後で知ったら、そのほうがひどいショックを受けるのではないでしょうか?

 出産に立ち会って励ましてあげたかった、血のつながる孫を慈しみ育てたかったと思うかもしれません。まだ人生経験の浅い10代にとって抱えきれず考えが及ばないところに、「内密出産」という提案がされてしまっただけなのではないでしょうか。

 自分が出産したという事実は消し去ることも忘れることもできません。この女性はこの先ずっと、この大きな秘密を抱えたまま生きていかなければなりません。

 誰かと巡り会って結婚してもうそをついたままでしょうか。次に妊娠して出産した子どもを育てる時に、内密出産のことを思い出して苦しくなるのではないでしょうか。

 そう考えると「内密出産」は最善の方策とはとても思えません。

 どこかに悩みを相談できる窓口があって、若い妊婦にとっても生まれてくる赤ちゃんにとっても、いちばん幸せな提案ができればよいと思います。

 (伊万里市 内山産婦人科副院長、県産婦人科医会理事 内山倫子)