国連人権高等弁務官のバチェレ氏が中国新疆ウイグル自治区を訪問した。終了後のオンライン記者会見で、同氏は中国に対して少数民族への人権侵害に懸念を伝えたと明らかにし、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)と中国が毎年戦略対話を行うと表明した。

 中国の習近平国家主席はバチェレ氏とオンライン会談し「中国国民の人権はかつてない保証が得られた」「人権問題を政治化、手段化し、他国の内政に干渉してはならない」と国際社会の批判に反論した。

 中国は強硬な新疆統治を治安維持のためと正当化しているが、バチェレ氏が現地を訪れ、定期的な人権対話に合意したことは評価したい。国際社会は中国と対話を続け、新疆や香港などの人権擁護を粘り強く働きかけていくべきだ。

 1989年6月4日、中国当局が民主化運動を武力で弾圧した天安門事件から33年。中国の人権状況は一向に改善せず、特に「国家の安全」を重視する習氏がトップの座に就いた2012年以降、少数民族や大陸・香港の民主派への締め付けは強まった。

 新疆では09年7月、多数の死傷者を出すウイグル族の大規模暴動が発生。その後も反政府運動が続き、習政権はテロリスト、独立派、過激派の「三悪一掃」を図る取り締まりを強化した。

 18年8月、新疆で100万人以上が政治キャンプに収容されていると国連人種差別撤廃委員会で指摘されて以来、4年近くたって人権高等弁務官を受け入れた。05年の弁務官初訪中以来17年ぶり。中国が受け入れに消極的なのは、西側の人権批判は共産党政権打倒を狙う謀略とみているからだ。

 英BBC放送などはバチェレ氏の訪問中、「習氏が収容施設の建設を指示」「新疆のトップは帰国したウイグル族全員を拘束し、逃走者は射殺するよう命じた」との中国の内部資料を伝えた。中国外務省は「反中勢力の中傷だ。うそやデマを流しても新疆の経済発展や安定した暮らしぶりを隠せない」と反論した。

 一方、米政府はバチェレ氏の新疆行きについて、行動制限の可能性があるのに訪問を決めたのは誤りだと批判した。

 同氏は会見で、中国に「対テロ政策を国際的な人権基準に合致させるよう求めた」と強調。少数民族の権利や反テロ、人権などに関して協議する作業部会の設置に合意し「相互理解は深まり、定期的な対話への道が開かれた」と訪問の成果を強調した。

 中国の馬朝旭外務次官は米欧の批判に反発する一方「中国は国連の人権の取り組みを重視している」として国連人権事業への協力を約束した。

 中国が人権問題で直ちに譲歩する可能性は小さい。しかし、批判と反論の応酬だけでは出口は見えない。冷静な対話を積み重ね、少しずつ人権状況の改善を図る必要があろう。中国は1998年、国際人権B規約(市民的・政治的権利)に署名したが、現在もなお批准していない。中国に規約の批准と順守を求めていきたい。

 松野博一官房長官は新疆の状況に「深刻な懸念」を表明し「国際社会が連携して中国に強く働きかけることが重要だ」と述べた。日中間の人権対話は10年前の尖閣諸島国有化に伴う関係悪化で途絶えた。日本は早期の再開を目指すべきだ。(共同通信・森保裕)