野生のキンラン

ランミモグリバエが果実を加害したキンラン

 美しい花を咲かせることで知られるラン科植物には多くの絶滅危惧種が含まれている。近年、日本の各地でランミモグリバエという害虫が、希少種を含むさまざまな野生のランの果実を加害して問題になっている。佐賀県内でも、キンランなどで被害が確認されている。

 この害虫は、最近海外から侵入して全国に拡大したのだろうか、それとも以前から日本に生息していたのだろうか?

 博物館や植物園で保管されている標本の調査では、100年以上前に採集されたランからも被害が確認された。そして、標本に残っていたハエの抜け殻の特徴から、この被害は現在問題になっているランミモグリバエによるものと考えられた。また、最近の研究により、ハエの抜け殻の遺伝子分析にも成功し、ランミモグリバエが以前から国内に生息していたことが確かめられた。このように、博物館に所蔵されている昔の標本が、思わぬところで役に立つことがある。

 博物館というと、多くの方は展示を目当てに訪れるだろう。一方、研究者は通常、標本が保管されている収蔵庫を訪問する。展示スペースが博物館の「顔」であるなら、収蔵庫はいわば「内臓」である。

 気候変動や開発により各地の生物相が大きく変化している中で、物言わぬ標本たちは、採集された当時のその地域の姿を語り継ぐかけがえのない資料である。

 私も微力ながら、100年後の人たちのために、身近な生き物の今の姿を記録し、標本を次の世代へと受け継いでいきたい。

(徳田誠佐賀大農学部准教授)=毎週日曜掲載