北海道・知床半島沖で乗客乗員計26人を乗せた観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没した事故で、国土交通省は運航会社「知床遊覧船」の事業許可を取り消す方針を固めた。桂田精一社長の釈明を聴いた上、来月中に処分を行う。斉藤鉄夫国交相は「このまま事業を継続させると、再び重大な事故を起こす蓋然(がいぜん)性が高い」と述べた。

 海上運送法に基づく処分としては過去に例のない、最も厳しいものになる。事故後の特別監査で、風速や波高など出航時の気象条件を定めた運航基準に反し、荒天が予想される中で出航を決めるなど17項目の安全管理規程違反を確認。有識者委員会で再発防止策の検討の取りまとめを急ぐ。

 ただ14人死亡、12人行方不明という重大な結果を招いた責任の一端は国にもある。監査や検査で何度も違反の実態を把握する機会があったのに是正につなげられなかった。過去に知床遊覧船が起こした事故に伴う特別監査で、北海道運輸局が運航再開に必要な書類の文案を作成し、記載内容を手取り足取り指示したこともあったとされる。

 人命を預かる観光船事業に対する国のチェックや指導が形骸化しているとの指摘は後を絶たない。このままでは、どんな再発防止策を講じても実効性を担保するのは難しいだろう。人員確保も含め、監査・検査体制を抜本的に立て直し、質の向上を急ぐ必要がある。

 知床遊覧船への特別監査によれば、桂田社長は風速8メートル以上で航行を中止するとした運航基準に反し、風速15メートルになる予報が出ていたにもかかわらず、行方不明になっている船長と話し合い、海が荒れたら引き返すという条件付きで出航を決めた。さらに社長は「運航管理者」の立場にあったが、事故当日は事務所におらず、航行中の定点連絡も行われなかった。

 そもそも事務所のアンテナが破損しており、無線は使えなかった。緊急時の連絡のため船に搭載していた衛星電話は故障。代わりの通信手段として事故直前に届け出た携帯電話も、航路の大半で通信エリア外だった。

 違反はまだある。社長は運航管理の経験がほとんどなかったのに、資格要件に該当すると虚偽の届け出をし、運航管理者として登録していた。運航基準を含む安全管理規程は事業者が自らまとめ、国に提出するが、いいかげんにもほどがある。

 こんなことがまかり通る背景の一つに、国によるチェックの甘さが挙げられる。知床遊覧船が昨年5、6月に起こした事故で、いくつもの管理規程違反が見つかり、北海道運輸局は特別監査と行政指導を実施。提出された運航記録簿には16日分の風速と波高として全て同じ数字が並んでいたが、問題視しなかった。

 10月には、改善を確認するため抜き打ちで事務所を訪れ、不在だった社長から電話で聞き取りをし「安全と法令順守意識の向上を確認できた」と評価した。また国の代行機関も事故直前に届けのあった携帯電話について、船長の「つながる」との説明をうのみにし、通信手段として認めた。

 カズワンの船体が海底から引き揚げられるのを待って、第1管区海上保安本部は業務上過失致死容疑での立件に向けて捜査を本格化させる見通しだ。悲劇を繰り返さないため捜査からも教訓をくみ取り、海の安全網整備に生かしていきたい。(共同通信・堤秀司)