多久小城支局に勤務していた20年ほど前、毎年5月の大型連休前後に「一番蛍」の情報をもらっていた。小城源氏蛍保存会2代目会長の柴田昌通(まさみち)さんからである。保存会は「21世紀に光の帯を」を合言葉に河川清掃や幼虫の放流などを続け、小城町の祇園川を蛍の名所にした◆暗闇の中で明滅する蛍の光は淡く美しい。黒という色は寂しく感じることが多いが、星空の黒は優しく美しい。暗闇でしか見えないものもある。〈てのひらの闇ごとわたす蛍かな〉宮本佳世乃◆桜と同じで、蛍がその命を輝かせるのは10日程度。日本人の感性に合うのだろう、蛍は文学との相性がいい。作家宮本輝さんの芥川賞受賞作「蛍川」は、ラストで蛍の大群が幻想的に描かれる◆映画では、高倉健さんが主演した「ホタル」を思い出す。小城町と姉妹関係を結んでいた鹿児島県知覧町が舞台の一つ。特攻隊員として散った若者が、蛍となって戻ってきたという場面が切ない。アニメ映画「火垂(ほた)るの墓」も涙なしでは見られない。終戦の願いを戦下のウクライナに届けたい◆小城町に限らず、近年は県内のあちこちで蛍が飛ぶようになった。環境意識が高まった証しであり、喜ばしい。源氏蛍保存会の柴田さんは4年前に亡くなった。でも、その思いは子どもたちに受け継がれていると思う。22世紀にも光の帯を。(義)

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