手足に震えなどが出る難病・パーキンソン病の患者による卓球大会で、鳥栖が全国的に注目されている。患者を対象に卓球教室を開いている鳥栖市桜町の鳥栖卓球センターでの教室の門をたたいた1人の女性患者が、自らが患者であることを公表して新聞やテレビに登場し、パーキンソン卓球への扉を開いたことと、そこへ導いた世界パーキンソン卓球で銅メダルを獲得した滋賀県の医師の存在が大きい。卓球が病気に有効なことを広く発信している。
 
SNSで知り合う

 鳥栖卓球センターを“聖地”と押し上げたのが鳥栖市の大曲和子さん(71)だ。大曲さんは6、7年ほど前から症状が出始め、2018年2月にパーキンソン病と診断を受けた。マッサージを受けても効果が持続しなかったという大曲さんは「自分自身でほぐす運動をするしかない」と決意。ストレッチから始め、少しずつメニューを増やしながら毎日入念にトレーニングに取り組んできた。

4月に鳥栖卓球センターで開かれたPPP―Jの初の九州大会。大曲和子さん(写真中央)も試合の傍ら、得点ボードを手に審判を務めた=鳥栖市桜町

 大曲さんと卓球をつなぐ存在となったのが、2019年の第1回世界パーキンソン卓球で銅メダリストになった滋賀県の医師川合寛道さん(57)である。2人はSNSのフェイスブックで知り合い、川合さんが大曲さんに卓球を勧めた。卓球ができる場所を大曲さんが探したところ、すぐ近くに鳥栖卓球センターがあると知り、早速通い始めた。
 2020年5月、歩くのがやっとの状況で卓球を始めたが、気付いたときには足の震えが止まっていたといい、大曲さんも“卓球マジック”を経験した一人だ。「パーキンソン卓球の世界大会を目指したい」という大曲さんは、卓球を介してフェイスブックで200人の友達ができた。

初期は軽い運動が有効

4月に鳥栖卓球センターで開かれたPPP―Jの初の九州大会=鳥栖市桜町

 川合さんは中学時代は卓球部。パーキンソン病を発症した後、わが子が卓球を始めることになって久しぶりにラケットを握ったところ「踏み出しがスムーズで卓球をしているときだけ病気を忘れて体が動いた。『病気ちゃうんじゃないか?』と思うほどだった」と自身の経験を語る。
 川合さんによると、パーキンソン病は、初期の段階ほど軽い運動を取り入れるのが有効で、症状の改善や病状の進行を遅らせることができるという。しかし、現状ではパーキンソン病と告げられると、多くの人がショックでふさぎ込んでしまい、歩行障害のもどかしさもあって外出せずに家に引きこもり、周囲との交流を閉ざして病状を悪化させてしまうという。
 川合さんは、今年4月に発足したNPO法人「日本ピンポン・パーキンソン(PPP-J)」の理事長を務める。PPP-Jは、全国大会の開催と世界大会誘致を目指している。大曲さんとの縁もあって、初のブロック大会として九州大会を鳥栖卓球センターで企画した。すると、コロナ禍で参加者を絞ったにもかかわらず、「鳥栖で試合がしてみたい」「大曲さんに会ってみたい」というメンバーが東京、千葉、鹿児島などから訪れ、6都県16人が集まって4月17日、大会が実現した。

全国に20万人

 PPP-Jの顧問でパーキンソン病と卓球の効用を研究する福岡大医学部脳神経内科の坪井義夫教授は「患者は現在、軽症者を含めると全国に20万人いる」と推定する。病気の原因となる脳内の神経伝達物質ドーパミンの減少を補うことと並行し、運動療法として卓球を続ければ「個人差はあるが、日常動作が改善されたり、声が大きく出るようになったりする。何もないという人はいなくて、3~6カ月程度で大体効果が出るようだ」と話す。
 卓球が効果的な理由について坪井教授は「普段は意識的に行わない重心移動や体のひねりを一連の動作で行うのがいい。卓球には症状改善に理想的な動きが含まれている」と解説する。また「患者は孤立化するのが良くない。悩みを共有し、自分を理解してくれる患者同士で話す中で声も大きく出るようになる。運動で全身が活性化されて気分的に上がるのもいい」とメンタル面の効用も強調する。
 コーチとして患者の指導に当たる鳥栖卓球センターの岡本篤郎代表も「“ミラクル”というか、卓球は本当に不思議な効果がある」と感嘆する。「日常動作が不自由そうで、教室までつえをついて来た患者の方が、教室が始まると小走りにボールを追いかけていく。『一体どういうことだろうか?』と目を疑うことがたびたびある」。

「みんなが勝者」

 大曲さんは現在、毎週2回、3人でレッスンを受けているといい、「初めは手足が震えていた皆さんが、教室に通い始めて震えが止まった。何より、表情がとても明るくなられた」と効果を挙げる。
 九州大会に駆け付けた川合さんは「取り入れる運動は卓球である必要は全くない」と言い切る。パーキンソン卓球大会が新聞やテレビに取り上げられることで、運動習慣が大事なことを広く知ってもらい、多くの患者が好きな運動を続け、生活の質をキープしてほしいと願う。「パーキンソン卓球は勝負に勝つのが目的ではなく、運動できる能力をキープし、生活の質が維持できればみんなが勝者になる」とも語る。
 パーキンソン病患者による卓球大会の開始は日本が最も早かったとされ、08年から16年までパーキンソン病友の会が全国大会を開いていた。世界大会は19年に米ニューヨークで第1回大会が開かれ、第2回はドイツだった。今後、クロアチアとブラジル大会まで決まっている。

大曲さんとパーキンソン卓球についての新聞記事がいくつも掲示されている鳥栖卓球センター

 4月に鳥栖卓球センターで開いた九州大会では、会場に張られた新聞記事を背に「この記事を見て卓球を始めました」と記念撮影する参加者もいた。卓球が秘めた不思議な効果を広めようと、鳥栖卓球センターは引き続き、パーキンソン卓球界の情報発信に取り組んでいく。初の九州大会は全国大会復活、世界大会誘致に向けた第一歩となった。5月には東海大会も予定され、PPP-Jは目標実現へ向け着実に歩を進めている。(樋渡光憲)