多久市にアトリエを構え、県内外で木工用ボンドを使ったライブペインティングを行うアーティスト冨永ボンドさん。「コラージュ技法(=のり付け)」からヒントを得て、ボンドのように繋げるという意味を込めた「ボンドグラフィックス」という屋号でアーティスト活動を始める。そこからヒントを得て「木工用ボンド」に絵の具を混ぜてライブペインティングを始め、現在仲間を増やしながら活動を続けている。
 冨永さんはアートセラピーという分野でも活躍しており、「夢は世界一影響力のあるアーティストになって、医療の分野を支援すること」と、アートのその先の思いを熱く語った。

 

冨永×ボンド

 

 美術やグラフィック、色彩について勉強したことは全くないという冨永さん。20歳のときにクラブなどの音楽イベントへ遊びに行くようになり、フライヤーやポスターの制作担当としてイベントに関わりはじめた。
 はじめは趣味で制作していたが、ある程度仕事が増えてきたために印刷会社を辞めて独立し、デザイン会社を作りたいと思うようになった。そこでさらに仕事を増やすためには、有名なアーティストとたくさん知り合うことが必要だと考え、自らイベントに出演することを思いついた。「自ら出演者になることで、ゲストと話ができるかもしれない」-ライブペインティングパフォーマンスの始まりだった。
 今まで制作していた「コラージュ(のり付け)」という技法が接着剤でくっついてるみたいだと着想し、「ボンドグラフィックス」という屋号をつけて活動をはじめた。しかし、いざライブペインティングをはじめようとしたときに絵についての知識がなく、描き方も画材も分からなかった。そこで、「ちょっと変わったことをしなければ。ライブで絵を描くだけでは美大生や芸大生に絶対にかなわない」と、屋号である「ボンド」からヒントを得て、市販されている「木工用ボンド」に色を付けて描きはじめた。
 線に使用している黒いボンドには水性のペンキを混ぜて使う。当初はベタ塗りの部分にもひび割れを防ぐためにボンドを混ぜていたが、最近は時間がなく黒のラインだけに混ぜている。

 
 

 壁画などの大きな作品を制作する際は、タイルなどの透き間を埋めるシリコンを押し出す「コーキングガン」にボンドを入れて線を描いている。「あれ、格好いいですよね」と無邪気にコーキングガンを構えるまねをする。ボンドは水性で水に弱いため、屋外の作品は黒のシリコンを代用している。
 色を混ぜるときはビニール袋に全部だして、黒のペンキをもんで混ぜ、ビニールの先を切って詰め直している。
 1回のライブで使うボンドは約10本。キャンバスはまちまちでA1サイズや幅10m、一番大きいもので5m×7mに描くことも。描き方によりボンドの量も変わるが、多いときは50本くらい使う。ライブペイントは年に60回開催し、ボンドの消費本数は500本にもなる。「個人でこんなに使う人おらんやろうな(笑)」

 
 

 

 

ライブ×ボンド

・絵のテーマは「人間」
・活動コンセプトは「繋ぐ(接着する)」

 参考にしたアーティストはいない。人の作品に影響を受けたくないから、美術館などには行かないし、人の作品に興味がない。「ほかの絵から得たものではなく、もっとオリジナルの作品を作りたいから、見たくないし知りたくない」
 美術の学校に通うとなると、必然的にデッサンの練習をしたり、有名なアーティストを知ることになる。そういうことを勉強しなかったからこそ、今、ボンドで描いているのであって、勉強することによって失われるものもあると考えている。
 次のライブペインティングで何を描くかは考えない。本番、会場に行ってキャンバスを組み立てて「さあ描くぞ!」という瞬間まで何も決めていない。毎回描く環境が違うから描ける絵がある。その場で会った人との会話、キャンバスサイズ、場所、流れている音楽、屋外か屋内か、制限時間はどのくらいなのか。お酒をたくさん飲んだらぐちゃっとした絵ができるし、静かなときはゆっくりしたラインが描ける。冨永さんの絵は彼自身のコンディションで決まる。
 アイデアよりもライブを意識し、人前でしか描かないということを貫いている理由は、「それがボクにしか描けない絵」だから。

 

 

多久×ボンド

 

 現在、西九州大学リハビリテーション学科の職員をしている。昨年結婚して神埼に住んでいたが、伊万里市で作業療法士をしている妻の美紀さん(32)が毎日往復三時間かけて通勤するのはきついので、その間にある小城か多久に新居を探していた。すると多久市から新婚の住宅手当が受けられることを知り、多久市に住むことを決めた。ちょうど家に絵が入りきれず、アトリエも探していたところ、大家さんが「建物もぼろくなってるし、使ってくれたら」と、安くで貸してくれた。
 引っ越して約1年、「多久めっちゃ良いっす!」と目を輝かせる。福岡を中心に活動している冨永さんにとって、福岡まで1時間で通えることが便利な上に、福岡ではこんなに大きなアトリエをもつことは絶対に出来ないと絶賛。また、多久市が地方創生に取り組んでおり、市民に企画アイデアを募集している。一人のアーティストが行政と一緒にプロジェクトをやることも福岡では絶対に出来ない。そういう面では「田舎めっちゃいい」とのこと。
 これまで音楽イベントで何度か佐賀には来ていたが、住むのは初めて。「繋ぐ」というコンセプトで活動している冨永さんは「佐賀と福岡のアートをつなぐ活動もいいかな」と漏らした。
 4月25日には19人でライブペイントを行った。ライブペンイントで話しかけてくる人は絵に興味をもっている人なので、「一緒に描きましょうよ」と声を掛ける。今後、ライブペインターを増やしたい。作家が増えることによって支援を活性化させたい。当日開いたアトリエを解放するイベント「ボンドバ」に参加した人は、前日にライブペイントデビューした人や以前にアートの世界に誘った人だという。そういった人たちがまた新しい作品を作っていくのが面白いと感じている。
 6年前に活動をはじめたとき、福岡でライブペイントしている人はほとんどいなかった。今、福岡・佐賀近辺では少しずつライブペイントするアーティストが増えて注目され始めている。「アートに興味のない人をアートでつなぐのもいい。福岡でこんなことは絶対にできない」と繰り返した。

 

 冨永さんは画家として、作品の評価よりも絵を「描く作業」が大切だと考えている。だからライブペインティングしかしない。人前で絵ができあがるプロセスを観てもらい、ワークショップでアートを体験してもらうことで、絵を描く楽しみや良いところをもっと知ってもらいたいと考えている。
 ボンドアートは誰がやってもいい感じに仕上がる。作業も段階的に別れていて明白。ベタ塗りして、境界線を描いて「完成」というゴールがある。チューブを握って出すのも、3歳~94歳までと誰もが楽しめる。

 

セラピー×ボンド

 ボンドアートをアートセラピーという分野で実践し、作業療法士と一緒に活動している。実際に認知症のデイケアや発達障害の子ども、精神障害者、グループホームや就労支援施設を対象にワークショップを行っている。自信を失ってる人たちが多く、絵が完成したうれしさや「できましたね」と褒められることで自信を取り戻すきっかけになる。冨永さん自身はセラピストではないが、あくまでもアーティストとして医療に関わっていきたいと話す。
 きっかけは、奥さんの美紀さんが作業療法士ということ。アートセラピーはもともとあった療法で、いろいろな種類があるが、そこにボンドアートを繋げてみたのがはじまりだった。
 今年の3月21日に九州産業大学の人間性心理学会から「学会でカウンセラーを対象にボンドアートをやらないか」と誘われ、ワークショップを行った。黒いラインや段階付けの効果について先生方に分析してもらい、とても良い評価をもらった。その嬉しい出来事はますます冨永さんの自信に繋がっていった。
 西九州大学にはアートセラピーサークルがあり、そこでもボンドアートを行っている。病院や施設でのワークショップでは、学生のいい経験にもなるのでスタッフとして手伝ってもらっている。
 発達障害の子の中には、めちゃくちゃに暴れてペンキをばらまく子やまったく描けない子もいる。そういった子に対してどう対応すべきなのか、作業療法士と共に医療の観点からアートを行う。

 

未来×ボンド

 ツイッターやフェイスブックに、日々考えていることやNYやフランスに行ったことを投稿していると、「勇気がでました」という手紙をもらうことがある。そういうのをもっと広く伝えたいと思っている。「それもボクにしかできないこと」
 「もっと影響力が欲しい」―作家として影響力があれば、もっと作業療法士のことを広報することができる。世界に比べて、日本では作業療法士の認知度が低い。アメリカのグッドジョブランキングでは作業療法士が9位なのに対し、日本ではどんな職種なのか知らない人が多い。
 冨永さんはアート作品に評価を求めていない。展示会を開いたり美術館に行ったりするよりも、みんなで絵を描くことが楽しい。
 NYに行ったとき、絵を見た人に「絵肌が新しいね!」と言われた。しかし、海外の人は日本人ほど、画材には興味がない。海外では色んな物でアートを制作しているため、黒のラインが立体的になっていようが、接着剤で描いていようがどうってことない。「評価されるとうれしいけど…」、アーティストであるが、やりたいことはアートにはない。
 「夢は世界一影響力のある画家になって、医療の分野を支援すること」とアートの先の目標を力強く語った。

 

クリエイターを目指すみなさんへ

 絵は誰でも描けるので自由に思いっきりみんなで描きましょう!誰でも歌えるように誰でも絵が描けるのだから。そしたら生活がもっと豊かになる。

 

イベント×ボンド

★アトリエ「ボンドバ」来場者100人超!
毎月第4日曜日はボンドバ開放日!

 
 
 

 冨永さんのアトリエ「ボンドバ」では、毎月第4日曜にアトリエを開放している。派手にやっていると「一緒にやりたい」と遊びに来てくれる人がいて、今とてもいい傾向にある。
 真っ白で開放感のあるおしゃれなアトリエは当初、倉庫の予定で借りた。しかし、月1で解放をはじめると予想以上に人が集まった。リサイクルショップが好きな冨永さんが、いろいろ家具を買ってきて置いたのが今のアトリエ。実は、お金はあまりかかってないのだとか。



★C-revoミーティング

 

 5月21日、県内外で活躍する専門家やクリエイターらが情報を交換し合い、新しいアイディアを生み出して行く場「C-revoミーティング」にゲストとして参加した。会場のシアターシエマ(佐賀市)で、冨永さんは県内外で活躍するクリエイターとして活動紹介を行った。
 アトリエ「ボンドバ」は毎月第4日曜を「解放日」としてワークショップなどのイベントを開いており、5月24日には初めて来客数が100人を超えた。


出演情報

7月19日 Zepp福岡で「ゴールデンタイムズ10周年イベント」に参加
7月26日 アトリエ「ボンドバ」の解放1周年記念 多数アーティストの参加や記念グッズを無料進呈予定
8月7日、8日、9日 熊本現代美術館でライブペイントを行う。3日間で幅10mのキャンバスを描きあげる。完成品は10月12日まで展示される。
9月4日、5日、6日 福岡県糸島で開催される「サンセットライブ」でライブペイントを行う。3日間で幅10mのキャンバスを描きあげる。

 

冨永ボンドさん(32)

 

 福岡市西区出身、多久市在住。福岡デザイン専門学校で家具デザインや環境デザイン、図面・CGを2年間学ぶ。大川の家具メーカーと印刷会社に勤め、夜は音楽イベントのフライヤーやCDジャケットを制作。現在は西九州大学のリハビリテーション学院に勤める傍ら、ボンドを使ってアーティスト活動を行っている。

動画

★クリエイターズカフェとは

佐賀県出身、または佐賀で活躍しているクリエイターを紹介していきます。(カフェ=人が集まる場、情報交換のできる場所。Visitor(ナンバリング)=訪問者、客。)

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