音響や映像関係のソフトウエア開発を行うアールテクニカ(東京都新宿区)の代表取締役の古瀬学さん(46)=佐賀市出身。代表的なアプリ「mimiCopy」(600円)は課金方式の無料ゲームアプリが主流な中、有料アプリながら8万ダウンロードを超えるヒット作となっている。
 2月から佐賀でもプロジェクトを開始。5月には佐賀市松原に佐賀スタジオを開き、オープニングパーティーにはIT・クリエイティブ関連企業などから約50人が集まった。
 古瀬さんのプログラマーとしての経緯やこだわり、佐賀でプログラマーやクリエイターを目指す若者に向けたメッセージを聞いた。

 

「ちゃんと」動くものを

 小学生のころ、ゲームを通して遊び感覚でプログラミングを始めた。その道を志して電気通信大学に進学した古瀬さんは、パソコンなどのソフトウエアのプログラミングを本格的に学び始めた。しかし、情報工学科の授業は座学で理論的なものが多く、IT系企業でアルバイトをしながらプログラミングの実践を学んだ。卒業するころにはフリーランスとして活動を始め、知り合いから仕事の案件を受けながら徐々に人脈を広げた。
 フリーランスでいることに「特に不安はなかった」。若さに任せて次から次に仕事をこなすうちに、“デジタル漫画”の先駆者として知られ、漫画「コブラ」で人気を博した寺沢武一さんのマネジメント会社から声が掛かった。寺沢さんは1980年代の前半からコンピューターで漫画を描くことに注目しており、フルCG(コンピューターグラフィックス)の漫画をデジタル出版して行く上での技術者として呼ばれた。知人の紹介でつながった世界的な作家やその周りに集まってくる人たちとの出会いは、大学を卒業して間もなく、まだ何の実績もない若者にとって大きな刺激となった。
 アールテクニカの代表取締役となった現在は、自分でプログラミングする機会は少なくなったが「これまでの経験の延長線上に今がある」とプログラマーとしての自負は強い。パソコンやタブレットが普及し誰もが簡単にソフトウエア開発ができる時代、プロとして仕事する上で、第一に「ちゃんと動く物」を追求している。「ちゃんと」とは、細かい部分の品質を落とさずに正しく機能すること。それから、使い手にとって使いやすいツール(道具)であること。

音程を変えずにスロー再生したり、曲の特定の場所を素早く再生することができる


 古瀬さんが開発した代表的なアプリ「mimiCopy」はその名の通り、音楽を耳で聴き、演奏を再現する“耳コピ”を助ける音響アプリで、音程を変えずにスロー再生や高速再生ができるのが特徴。学生時代にバンドをやっていた経験から発想された。
 アプリのデザインは「一見派手だけど保守的」。第一印象で美しく見えることを大事にしつつ、それ以上のアーティスティックな飾りを入れない。あくまでツールとして売り出しつつ、「欲しい」と思わせるデザインにする。この飾りすぎない工夫はアールテクニカで作られるすべてのアプリに共通している。

音楽に合わせ映像を流す「VJ」の基本的な機能が備わっているiPad専用アプリ

 

「コブラ」をプロデュース

(C)BUICHI TERASAWA / A-GIRL RIGHTS

 アールテクニカと兼務するエイガアルライツ(東京都世田谷区)の仕事は、著作物の版権を取り扱うライツビジネス。代表的なものは寺沢武一さん原作で世界的に有名な漫画「コブラ」の“プロデューサー”としての仕事。
 例えば、キャラクターのフィギュアを作りたい企業が現れたとき、作者に代わって交渉の窓口となる。原作者が直接交渉するのがもっとも効率的だが、作家は作品を良いものにすることだけを考えてほしいとエイガアルライツが代行する。“0”から“1”を作るソフトウエア開発に対し、すでに世界的に人気のあるコンテンツの価値を高める必要がある。
 寺沢さんは手塚治虫さんに師事。少年ジャンプの読み切りでデビュー作「コブラ」を発表し、その後連載を始めた。いち早くデジタル漫画に着手したのは「その可能性が想像できてしまったから」。今でこそコンピューターで絵を描く作家は増えたが、1980年代からデジタル漫画を手掛けた寺沢さんはその先駆け的存在だ。
 ライツビジネスを展開する上で、「コブラ」のような人気の作品は、新しい世代に広める課題はあるものの「言葉を選ばずに言えば楽」。一方で、知名度のないものをいかに広め、人気を獲得するかが課題となる。今後、佐賀のクリエイターの作品をマネジメントすることにも意欲を見せる。

 

ふるさと佐賀でも事業展開

佐賀市松原のアールテクニカ佐賀スタジオ

 5月21日、佐賀市松原のアールテクニカ佐賀スタジオでオープニングパーティーが開かれた。佐賀に拠点を作ったのは、東京でソフトウエア開発を行う人材が不足したから。社員8人で案件を受け、それ以上の仕事を断ることもあったという。
 ふるさと佐賀に拠点を置く構想は10年ほど前からあったが、主に東京で活動する古瀬さんに代わり、佐賀で中心になって活動する人材がなかなか見つからなかった。しかし印刷会社でウェブの制作などを手掛けていた卜部季頼(うらべすえとし)さん(37)を社員として迎えたことで、10年越しの構想は実現。今は東京で受けた仕事を佐賀スタジオに分担することが多いが、今後は佐賀独自の仕事を増やしていく。
 古瀬さんはプログラミングに興味を持つ学生も人材として招き入れる。すでにいくつかのアプリを学生と開発し、「東京と比べて佐賀には仕事が少ないかもしれないが、だからこそ自分から動くことで注目は集まりやすいはず」と話す。
 しかし、「佐賀の人はそれが苦手」と“恥ずかしがり屋”な県民性を感じるという。古瀬さんはこれまでの経験を踏まえ、佐賀の若者へ「チャンスのある場所に自分から動くこと。そうすることで、おのずとチャンスをつかむことができる」と自分から行動するよう呼びかける。
 1994年に個人事業として設立したアールテクニカが約20年の間、大企業の支援もなく事業展開できているように、デジタルメディアは普及しチャンスは増えている。誰かに背中を押されるのを待つのではなく、自発的に行動すること。アールテクニカ佐賀スタジオは、プログラマーを目指す若者にとって一つの入り口でもある。

 

佐賀のクリエイターへ

「チャンスのある場所に自分から動くこと。そうすることで、おのずとチャンスをつかむことができる」

 

こせ・まなぶ(46)
 佐賀市出身、東京在住。佐賀西高から電気通信大学(東京)に進学。そのまま東京に活動の拠点を置き、1994年にソフトウエア開発を行うアールテクニカを設立。2003年から寺沢武一原作の漫画「コブラ」などの版権を取り扱うエイガアルライツの取締役も務める。
 5月にはアールテクニカの佐賀スタジオを開設。佐賀の人材を生かしながら、東京の仕事を分担するだけでなく、佐賀独自の事業展開を目指す。
 

動画

 

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