世界の歌姫ビヨンセの専属キーボーディストでツアーの楽曲アレンジも務めるRee-Aさん(辻利恵、佐賀北高校出身、米国在住)。
 毎年1回は佐賀に帰省しているが、高校卒業後、佐賀市文化会館では初の演奏となる「佐賀市民芸術祭」のオープニングセレモニーを飾り、浪漫座では3年ぶりの凱旋(がいせん)ライブを開いた。今年は5年ぶりに母校・佐賀北高校を訪問し、特別な帰省となった。

佐賀市で凱旋ライブ

 11月13日は佐賀市文化会館で行われた「佐賀市民芸術祭」のオープニングセレモニーを華やかに飾った。アメリカから来たベースのローザン・ラズマンさんとドラムのトーマス・ハートマンさんによるトリオ演奏で、後半は佐賀モダンジャズオーケストラとの共演も。学生時代にさまざまなコンテストで通った同会館。卒業してからは初めてのライブとなる。裏口からステージ袖にはいると「匂いが懐かしい!」と繰り返す。楽器の配置、音、演奏イメージを入念にチェックし本番に備える。

市民芸術祭でオープニングセレモニーを飾った辻さんとアメリカから同行したベースのローザンさん、ドラムのパトリックさん=佐賀市文化会館

 本番当日、辻さんは黒のロングドレスに身を包み、自身のオリジナル曲「Enemy」と「Dancing Leaves in Autumn」のほか、ビヨンセやジョン・レノンの曲を披露した。

 26日、27日には佐賀市の浪漫座(旧古賀銀行)で凱旋ライブが行われた。芸術祭でのメンバーにトランペットのパトリック・ムーディさんが加わったカルテット演奏。後半は松本かつひろさんがボーカルとして参加。落ち着いた照明と木造のレトロな洋館に響く心地良い演奏に観客は静かに酔いしれた。

 

 辻さんとローザンさんが楽曲制作に関わったテレビドラマ「かもしれない女優たち」のエンディング曲「Around the Corner」をバックにメンバー紹介が行われた。ライブの感想を聞かれたパトリックさんは「僕的には楽しかった」と流ちょうな日本語で話した。好きなアーティストを聞かれたローザンさんは「ミスチル、ユーミン」と答えた。観客席のライトを付け、一緒に記念撮影。控え室では漢字を書いていたというトーマスさんにマイクを向けると「全身全霊、一期一会、安物買いの銭失い」と覚えた言葉を披露し、予想外の言葉に会場に笑いと拍手が起こった。ライブの最後に、辻さんはファンとスタッフに「すてきな会場で、そしてすてきなメンバーで演奏できてとてもうれしい」と感謝の言葉を繰り返し、(亡き母への思いを込めて)手伝ってくれた父・法夫さんへも「ありがとう!世界一のDadです!」と顔をほころばせた。

 

◆恩師・武田先生

北高時代の講師、武田真理子先生(中央)もライブに訪れた=浪漫座・凱旋ライブ

 高校時代に辻さんを指導していたピアノ講師・武田真理子先生も凱旋ライブを訪れた。ライブ後、辻さんと熱い抱擁を交わし、記念撮影。ライブに来たのは3回目とのことで「当時と変わらない。MCで話してたあのまま。優等生では無いけどやんちゃでもない。昔から自分の考えはしっかりと持っていて、ここまで大きくなれたのも彼女の実力があったから」と話した。


 

◆プロフィール

 

■辻利恵 Ree-A(つじ・りえ) 佐賀北高出身。東京音楽大学卒業後、米・バークリー音楽大学に入学。2006年、ビヨンセのバックバンドオーディションに合格し、ファーストキーボーディストとしてツアーに参加。楽曲のアレンジも任される。10年にアメリカのホワイトハウスでのショー、13年にはスーパーボウルのハーフタイムショーに出演。

 

■Rozhan Razman(ローザン・ラズマン)・ベース

市民芸術祭と凱旋ライブに参加。辻さんとニューヨークのブルックリンで音楽スタジオを運営する。

■Thomas Hartman(トーマス・ハートマン)・ドラム

市民芸術祭、凱旋ライブに参加。日本が大好きで漢字をたくさん覚えている。

■Patriq Moody(パトリック・ムーディ)・トランペット

凱旋ライブに参加。

■松本かつひろ(まつもと・かつひろ)・ボーカル

凱旋ライブに参加。福岡を拠点に音楽活動をしている。

 

楽しい時間はあっという間

■「HOME」浪漫座で凱旋

 昨年11月26日、27日に浪漫座で行われた「ree-a凱旋帰国LIVE」。辻さんと共にステージを盛り上げた3人はボストン時代からの友人で、トランペットのパトリックさん、ドラムのトーマスさん、そして辻さんの夫でベースのローザンさん。音楽を心から楽しんでいる皆さんに話を聞いた。

 

-浪漫座で演奏してみての印象は?

ローザン ここで演奏するのは3回目。「HOME」のようにあたたかく感じている。スタッフの人たちが優しくて、アキさん(浪漫座の角田章裕さん)たちがいるからこそ、よりHOMEな感じがする。

トーマス 建物がオシャレでエレガント。本当に美しく、歴史を感じる。そして何より音の響きが良い。

パトリック 懐かしい。3年ぶりに戻って来られてうれしい。ここで演奏するのがすごく好き。エフェクトがいらないほどだが、使うともっときれいな音になる。

-NYと佐賀の客の違いは?

トーマス 佐賀のお客はとても静かだけど、ちゃんと聴いてくれているのが分かる。尊敬されているように感じる。でも本当に好きかどうかは分からない。アメリカでは、好きか嫌いかが分かりやすい。嫌いだったら携帯をいじるなど別のことをするか、会場から出て行く。

ローザン アメリカでは、良いパフォーマンスをしたら演奏の途中でも拍手など反応があるが、日本ではあまりない。しかし、お客の顔を見ればしっかり聴いていることがすぐ分かる。

パトリック 日本でも東京の方がノリノリな感じがする。佐賀はみんなの表情で(反応が)すぐ分かる。

-地元の歌手・松本かつひろさんもゲストで登場。2日間のライブについて。

ローザン 素晴らしかった。次の日ももう一度ライブをやりたいが、2日間で終わるのが寂しい。もう1回戻ってきたい!佐賀大好き!!

トーマス すごい楽しかった。2日目のエナジーは1日目より良かった。

パトリック 2日目は1日目よりちょっとリラックスして演奏できた。お客の反応を見ながら、「もっとできるかな」と実験みたいに試すことができた。カノンはかっこよかった。良い曲!

松本かつひろ この2日間は不思議な時間だった。最高の音楽を奏でる人は、人も良い。勉強にもなったし、いろいろ考えずに楽しめた。ありがとう。

利恵 2日目は最後だから、感極まる場面もあった。楽しいことは終わりたくないが、最後なのが寂しい。2日とも本当に楽しかった。

 

 

市長表敬 「ずっと弾いていたかった」

秀島敏行佐賀市長に市民芸術祭の感想を伝えた辻さんとメンバー=佐賀市役所

 辻さんは11月24日、秀島敏行佐賀市長を表敬訪問した。父親とバンドメンバーのローザン・ラズマンさん、トーマス・ハートマンさんも同行。13日に行われた佐賀市民芸術祭での感想を伝え、幼少時代の家族との思い出や、アメリカのボストン時代に出会ったバンドメンバーについて話した。
 全国的にも音響設備を高く評価される佐賀市文化会館。高校を卒業してから初の舞台となった同館でのセレモニーについて「小さい頃にたくさんの影響を受けた場所で演奏できて、すごく光栄だった。心地よくてずっと弾いていたかった」と話した。

メディア出演で裏話も

ラブエフエムのDJ・Tomomiさんとアメフトのハーフタイムショーの裏話で盛り上がる=福岡天神

 帰省中は、エフエム佐賀やNBCラジオ、福岡天神のラブ エフエムなど多数のメディアに出演。音楽活動を始めたきっかけや、ビヨンセとの出会い、ニューヨークでの暮らしなどを話した。
 17日に収録した福岡市のラブ・エフエムでは、アメフトが大好きなDJ・Tomomiさんと、世界から注目を集めるプロアメリカンフットボールNFLのチャンピオンを決める試合「スーパーボウル」のハーフタイムショーの裏話で盛り上がった。辻さんは2013年のビヨンセのショーでバックバンドとして参加。6万人以上を収容するスタジアムの端から30人くらいのスタッフがステージのセットを走って設営。完成したら走ってスタンバイし、すぐさまステージが始まるという怒濤の10分間だったと話した。
 番組の最後には、支えてくれた家族やファンへの感謝の気持ち、ふるさと佐賀への愛を語った。

 

愛するふるさと佐賀 Ree-Aの原点に密着! 

大好きなヨーグルトのシューアイスをカメラにアピールする辻さん=マウンテン枳小路

◆世界一の味

 辻さんが愛してやまないシューアイスが食べられるのは佐賀市水ケ江の「マウンテン枳小路」。佐賀に帰る度に必ず食べるという。素材を生かした素朴な味と学生にも優しいリーズナブルな値段が人気で、学生時代は友達とよくおしゃべりをしながら食べていた。

 「おばちゃん、お久しぶりですー」-辻さんは帰宅するかのように笑顔で入店。辻さんは店主・塚原歌代子さんの次女と同級生で、「中学卒業の時、クラス分のシュークリームを持ってきてくれたの覚えてるよ」と声をかける。懐かしむように店内を見回し、メニュー表を見つけると目を輝かせた。

 辻さんのオススメはヨーグルト味。口にすると「ん~。変わらない!」と思わず口元が緩む。シューもアイスもすべて手作りで他では味わえない独特の食感がやみつきのポイント。当時は表のベンチがなく、狭い店内に女子高生があふれて入れないほどだったが、リニューアルして少し広くなっている。値段も安く65円。

 

 以前はたこやきもあり、家で青色の袋を見ると「あ!マウンテンのたこやきが買ってある!」と喜んだそうだ。塚原さんが一昨年、体調を崩してから販売を中止している。家庭的で少したまごの味がする温かい味と表現する辻さん。「マウンテンのたこやきはマウンテンだけの味ですごく美味しかったの」と少し寂しそうな様子。近くの県病院も移動し、客も減ってしまったと話す塚原さんに、時代の移り変わりを実感する。

 「新しくクランベリーヨーグルトも作ったから食べて」-塚原さんが新作を差し出すと、「クランベリーってアメリカではジュースでよく飲むけど、珍しいと思ってたの。甘酸っぱいのがアクセントになってて美味しい!」と顔をほころばせ、2つともぺろりと食べてしまった。クランベリーはアメリカに留学していた娘に勧められてメニューに追加したとのこと。

 「世界中まわってたらこの味もどこかにあるでしょ」と言う塚原さんに、「ないよ!ここだけの味!」と手を振って否定する。辻さんにとってマウンテンの味は今も昔も変わらない世界一の味だ。

 

◆5年ぶりの母校

高校生の質問に真剣に答える辻さん=佐賀北高校

 辻さんが母校・佐賀北高校に訪れるのは5年ぶり。その間に新築された校舎を見て「前はこんなの無かった」と目を輝かせた。校内へ入り、廊下から中庭が見えると「何これめちゃくちゃキレイ!」と大はしゃぎ。所属していた芸術コースの位置を「あの辺でしたよね」と指で差しながら先生に確認した。
 辻さんが過ごした音楽棟は当時と変わらないまま。2階の演奏室に入ると、たくさんの生徒が盛大な拍手で出迎えた。集まったのは芸術コースと吹奏楽部の1~3年生約80人。卒業生も数名駆けつけた。ピアノの前の椅子に座ると質問タイムがスタートする。生徒の質問一つひとつに辻さんは真剣に考えながら答えていく。
 緊張したときの対策について聞かれると「緊張は絶対する。よく聞かれる質問だけど、何万人も入るスタジアムとかコンサートとか、大きい場所だと逆に緊張しない。肝が据わるのかな?変な話、今みたいに狭い所の方が緊張する。それを相手に見せないように、笑顔を作っている。あとは、その世界に入り込んで集中すること。みんなが見ているとか気にしないで、自分の表現したいことに思いを寄せる」と自身の活動を振り返りながら話す。「オバマ大統領のパーティでは緊張しなかった」と付け加えると生徒から笑いが起きた。
 ステージに立つ前、モチベーションを上げるためにすることはあるかと聞かれると、全然無いと答える。生徒はコンサートや試験が多い時期なのか緊張についての相談が多い。

 

 芸術コースで学んで良かったことについて聞かれると、「やっぱり専門に集中できたこと。普通校だと学校が終わってからのレッスンで時間的にも難しかったと思う。北高はカリキュラムに入っていて、先生の理解もあるから良かった。そんな学校なかなか無いからね。年に1度は合唱と吹奏楽が一緒にミュージカルやオペラをやって楽しかった」と語った。当時とは違うカリキュラムや試験に生徒も辻さんも驚く。
 厳しく注意されて音楽をやめたくなるときもあると相談されると「高校時代、教えてもらった先生はすごく厳しかったけどやめたいと思ったことはない。高校時代より、本場のミュージシャンを見たときがへこんだ。がむしゃらに練習してアメリカに渡ったのに、勝てないというか圧倒されて。自分が本当にやりたいことでガツンと現実を体感させられるとへこむ。人生の中でそうゆう時期ってあるけど、私の場合はアメリカに渡ってからがその時期だったのかな」と答えた。
 最後の質問は、高校時代にやっておいた方がいいこと。「んー」と考えたあと「青春!」と笑いながら答えた。「先生に怒られたことよりも、今思い出すのは放課後に友達と話したり、楽しかった思い出が多い。楽しい時間をたくさん過ごすことかな。でも勉強はちゃんとしてね」と念を押した。

 

 帰り際、ピアノが2台横に並べてある個室・練習室に入る。ピアノは当時のままで、エアコンとブラインドが新調されている。「懐かしい」と呟きながらピアノの鍵盤をなぞる辻さん。そこに末永文美香先生(芸術科)が当時の発表会のアルバムを開いてくれた。「いや~なつかし~!何このポーズ、ちょっとやだー」と集合写真や発表中の写真など、頷きながらページをめくり、笑いながらスマートフォンで撮影。「みんなスカートが長いのにあなただけ短いのよ」と指摘を受け、「今だから言える話、スカート曲げてた」とお茶目に話した。

■Q&A

Qピアノを始めたのは自分から?
「母がヤマハの先生で姉もピアノをしていたから音楽があるのが自然だった。途中で練習をやめたいとか、遊びに行きたいと思う時期もあった。小学生くらいから音楽はずっと続けるんだろうなと思っていた。プロとかピアニストになりたいとかではないけど、ずっとピアノをやるんだろうなという感覚」

Q高校時代つらかったことは?
「楽しい思い出しか覚えていない。当時はアメリカに留学することばかり考えてた。アメリカに渡ってからが英語のスピードが速くてつらく感じることもあった。でもそれが逆に原動力になったし、支えてくれている人のことを思い出して頑張った」

Q今の仕事で一番楽しかったこと
「昔からいろんな世界に行くのが夢で、仕事としてそれが叶って嬉しかったし、いい経験になった。ビヨンセとは2016年で10年目だけど、当時からのオリジナルメンバーは私1人だけ。ツアー中はメンバーとずっと一緒だからみんなが家族みたいになる。広い海に航海に出る感じで、けんかしても抜け出したくても逃げ場はない。それを乗り越えていく間にチームワークが出来て、それが自分の財産になっていく」

Q一番印象に残っている国は
「アフリカ、インド、エジプトかな。5大陸全部巡ったけど、先進国は文明のレベルで言うと似てる。ネットがあって、英語が通じてスタバがあって。でもこの3国なんかは貧困の差があったり、カースト制度があったり、普段の自分たちとは違う生活を送っている。教科書でしか見たこと無かったピラミッドも見られたし、そういう体験が出来たこと」

Q好きな曲は?
「高校の時は古着全盛期で、古着屋さんで流れていたアメリカの40~50年代の曲を聴いてた。昔からアメリカ好きだったんだね」

Qジャズをもっと楽しく演奏する方法
「ジャズはひとことで言うと即興の世界。楽譜にない音を作り出す。コードが書いてあったら音を変えてみたり加えたり、アレンジしていくと自分のカラーになる」

 

動画

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