ロシア外務省は日ロ間の最大の懸案である北方領土返還問題を含む平和条約締結交渉を中断すると発表した。元島民らが北方領土を訪れる自由訪問や、ビザなし交流事業も停止すると表明。日ロの平和条約交渉は当面、凍結される深刻な事態に陥った。

 これらの措置はウクライナ侵攻に対する日本の制裁に反発した対応だろう。ロシア側の反応は想定されたものではある。しかし、長年積み上げてきた交渉を一方的に打ち切る対応は断じて認められない。交渉の継続を強くロシア側に求めたい。

 ただ、交渉再開のためにロシアに対する制裁を緩めるようなことがあってはならない。ロシア軍の攻撃停止に向けて米欧と歩調を合わせた外交を展開すべきだ。

 ロシア外務省は、日本政府の制裁措置に対して「非友好的態度を取る国と、両国関係の重要文書署名を討議することは不可能だ」と通告。2016年の首脳会談で協議開始に合意した、北方領土で両国が出資して事業を行う共同経済活動からも撤退すると表明した。

 これまでの地道な交渉の成果を全て白紙にする内容だ。しかし、制裁を招いた非がロシア側にあるのは言をまたない。岸田文雄首相が参院予算委員会で「極めて不当で受け入れることはできない」と述べた通り、日本側が通告を受け入れる必要はない。

 北方領土は1945年の終戦時に日ソ中立条約を破ってソ連が占拠した。その返還交渉は、歯舞、色丹2島の日本への引き渡しを明記した56年の日ソ共同宣言以来、国後、択捉両島を含む4島返還か2島返還か、日本政府の方針も揺らぎながら続いてきた。

 2島返還に事実上、かじを切ったのは安倍晋三元首相だ。プーチン大統領と27回の首脳会談を行い、2018年の会談で、2島返還の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速する方針で一致した。安倍元首相は14年にロシアがクリミア半島を強制編入した後も、プーチン氏と会談を重ね、約3千億円の対ロ経済協力も表明、ロシアによる「不法占拠」という表現を使わないなど対ロ配慮を示してきた。しかし、安倍政権時代に交渉が前進したとは言い難い。

 ロシア側は、第2次大戦の結果としてソ連に主権が移ったことを日本が認めるよう要求。プーチン氏は返還した領土に日米安全保障条約に基づいて米軍が展開することに懸念を示していた。

 北方領土、千島列島に囲まれたオホーツク海はロシア海軍の重要な戦略的拠点になっている。ウクライナ侵攻で勢力圏拡大へのこだわりを示したプーチン氏が返還に応じる可能性は極めて小さいというのが現実だろう。

 それでも交渉を続ける意味は、終戦時の不法行為を正して日本の主権を明確にし、平和条約を締結することにある。1992年から実施されている4島住民とのビザなし交流や、99年に実現した元島民や家族による自由訪問は、その環境づくりが狙いだった。

 元島民は平均年齢が80代後半になる。交流を打ち切るというロシアの通告は、元島民の故郷への思いを打ち砕くものだ。

 ロシアが対日強硬策に出てきた以上、北方領土周辺の安保環境にも注意を払う必要があろう。制裁を継続しながら、内外に目配りした対応が岸田政権には求められる。(共同通信・川上高志)