佐賀市出身の書作家・江島史織さん=東京在住=は、掛け軸や商品ロゴの制作、書道パフォーマンスをはじめ、ドラマや映画で使用する書や手紙などの美術品の制作、書道家役の俳優の演技監修など多方面で活躍している。小中学生のときは「やめたくて仕方がなかった」という書に対する思いや現在の活動、今後の目標について聞いた。

「ロマンシング佐賀3」イラスト展の特設ブースに執筆する江島さん=県立美術館

 転機が訪れたのは大学時代。何となく書道教師を目指し東京学芸大学(東京都)の教育学部へ進学した。しかし、佐賀に比べると東京は書道教師の需要が低く、不安を覚えた。別の仕事をしながら趣味で書を続けようと思い始めたころ、大学に届いた1通のファクスが人生を大きく変えた。

 大学4年のある日、ドラマで使用する書の提供と、役者の監修を募集するファクスがテレビ局から届いた。「面白そうだし、記念にやってみよう!」と“ダメ元”で作品を提出すると、数日後に「撮影に来てほしい」と連絡があった。

 デビューを飾ったのは、2004年に放送された恋愛ドラマ「東京湾景」(フジテレビ)。主人公の相手役で和田聰宏さん演じる書道家が書いたとされる作品の制作や、書くときの姿勢、筆の運び方を教えた。少し関わるだけだろうと思っていた撮影だが、最終話へ進むにつれ韓国ロケも依頼され、急いでパスポートを作った。初回から大きな仕事を得た江島さんは、そこで知り合った美術スタッフの紹介でドラマの仕事が定着する。

 監修まで関わった作品は、「不信のとき」(2006年・フジテレビ)や「美しき罠~残花繚乱~」(2015年・TBS)、佐賀で撮影された映画「悪人」(2010年)など。作品提供のみの参加はフジテレビ系列で「東京タワー」(2007年)や「あんみつ姫」(2009年)、さらには大ヒットドラマ「リーガルハイ」(2013年)など約30作品に上る。「面白いことに不倫もののドロドロなドラマが多いんですよね」と笑いながら話す江島さん。

 監修に入るときは脚本もしっかり読む。「不信のとき」の撮影では、朝早い収録にもかかわらず書の練習をした主演の米倉涼子さんから「どうかな?」と相談された。先生という立場とは違うが指導を仰がれ、米倉さんのドラマにかける熱意はもちろん、技術を信頼して頼ってもらったことに、胸にこみ上げるものがあった。

 「手元の撮影のときはカメラがすごく近くて難しいんですよ」―役者の手元の代役や、書いたばかりのみずみずしさを残すため役者が入る直前に書くこともあり、一つの撮影の中でもいろいろな場面で参加する。最近はドラマの仕事は落ち着き、店の看板や商品ロゴの制作、書の実演などを行っている。

 

「ロマンシング佐賀」展 県立美術館で9月4日まで

 2014年からスタートしたスクウェア・エニックスの人気ゲーム「SaGa(サーガ)」シリーズと佐賀県が「SAGA」つながりでタイアップした「ロマンシング佐賀」企画で、タイトルロゴの「佐賀」を執筆した。

タイアップ企画のタイトルロゴ。江島さんは「佐賀3」を執筆

 県からコラボ展示のタイトルロゴの依頼があり、もともとスクウェア・エニックスのファンだった江島さんは二つ返事で引き受けた。「SaGa」シリーズはもちろん、人気ゲームの「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」も熱狂的なファンで、「SaGa好きを誰にも言ってなかったからなおさらうれしかった!」と当時のことを興奮気味に語った。

 ゲームのロゴが筆文字だったこともあり、雰囲気は壊さず「佐賀」にインパクトを持たせるように書いた。かすれさせたり、墨をたらしたり、作品に出てくる剣の鋭さを表現したりさまざまなパターンを考案した。

「サガ フロンティア」に合わせ、嬉野にはキャラクターとロゴをラッピングした足湯が設置されている。

 「ロマンシング佐賀」に加え、サガン鳥栖とのコラボ「ロマンシングサガン」のロゴ制作にも参加し、「SaGa」コラボシリーズの担当といっても過言ではない。今年で3回目を迎えた「ロマンシング佐賀3」は佐賀市の県立美術館で原画イラストの展示会が開かれている(9月4日まで)。7月30日のオープニングセレモニーに訪れた江島さんは「自分の字が、グッズやポスターなどいろいろなものに展開されるのは初めてで、とても感慨深いし、気恥ずかしいような感覚もある」と話す。また、基山出身で活躍中の人気漫画家・原泰久氏の「キングダム展」と同時にイベントができたことも喜んだ。館内に特設されたメッセージボードでは江島さんの「Welcome to SAGA」の書を見ることができる。

 

本当はやめたかった…

 「本当はやめたくて仕方なかった」-江島さんは苦い顔で幼少時代を振り返る。小学生から水泳やピアノ、習字などの教室に通っていたが、友達と遊びたかったし、部活動に参加したくてたまらなかった。たまたま教室の事情で水泳とピアノをやめたが、どんなに相談しても母・みゆきさんは習字だけはやめさせてくれなかった。みゆきさんは「続けることの大切さを伝えたかったから」と後に明かし、江島さんも続けて来たことが力になっていると実感している。

 やめたくて仕方なかった書は、高校で気持ちが変わった。志望した佐賀北高・芸術コースの書道専攻には、成績的にも技術的にもギリギリだと言われながら無事に合格。高校の3年間は早朝から夜遅くまで毎日書いた。

 周りは上手な人ばかりだったが、それを引け目に感じてやめたいと思うことはなかった。書道に限らず、美術も音楽も続けることが当たり前な環境にいたことも理由の一つ。どうしたらうまく書けるのか、先生のお手本にそって何度も書き、ひた向きに課題に取り組む高校生活を送った。

 

地元 佐賀でも

 ドラマの仕事と同時期に佐賀での仕事も始まった。川副町でゆずこしょうや漬けものを製造する「竹下商店」の三木吾朗代表と江島さんの母・みゆきさんが同級生ということもあり、「佐賀逸品会」のメンバーで丸秀醤油の秀島宣雄代表や三福海苔の川原常宏代表とつながり、商品パッケージのロゴ制作を担当した。川原さんの店には月9の人気ドラマ「リッチマン・プアウーマン」(フジテレビ)で使用された「○△□」の書が飾られている。

ドラマ「リッチマン、プアウーマン」で実際に使用された書はお世話になった三福海苔の川原さん(右)の元に=川副町の三福海苔「のり道楽」

 学生時代は久保泉町から学校までの通学路を通るだけの生活で、ほとんど佐賀を知らないまま上京した江島さんは、「東京にいながら佐賀のすばらしさを知ることができたのも、逸品会のみなさんのおかげ」と感謝している。佐賀に帰るときは旅行者のつもりでいろんな場所を訪れ、勉強するように努めている。

 

書とこれから

 「気持ちが高まって書いたものは、何十年たっても好きでいられる。そういうものを書き続け、提供していきたい」―これまでも依頼人の要望に精いっぱい応え、満足してもらえる作品を提出してきた。さらに、江島さんは仕事に誠実さを求め、もっと上を目指して取り組む姿勢を見せた。

 個展を開かないかと声はよく掛かるが、ほとんどが仕事で制作したもので個人の作品がなく、開けないのが正直なところ。たまに食べ物の名前を書いてFacebookなどのSNSに写真を載せているが、展示するような作品は書いたことがない。いずれ人に見てもらえるレベルのものができれば、個展も開いてみたいと語った。

 

クリエイターを目指す皆さんへ

 学生の頃、周りからは書道を続けてどうするんだろうと思われていたみたいです。その頃は仕事というより、趣味でやっていたけど、可能性はいろいろあると思います。自分自身、続けることが力になっていると実感しているし、みなさんも好きなことはどんどん続けてください。

 

えじま・しおり
 1982年、佐賀市生まれ。幼少の頃から習字を始め、佐賀北高校芸術コースの書道専攻に進学。お手本のようなきれいな字を書くことにひた向きに取り組み、東京学芸大学の教育学部では自分らしいオリジナリティのある書を追求した。テレビドラマや映画の美術セット制作と演技監修を続けながら、店の看板や商品ロゴの制作、実演など多方面に渡りフリーで活動中。

 

動画

 

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