「歌会始の儀」では天皇、皇后両陛下や皇族のほかに、一般入選者10人の歌も独特の節回しで朗詠される。一般の選歌が披講されるようになったのは1879(明治12)年から。宮内庁のウェブサイトには「画期的な改革で、今日の国民参加の歌会始の根幹を確立した」とある◆今年も10人の歌が選ばれた。お題は「窓」。厳かな雰囲気が画面越しにも伝わる中継を見て、香川県の藤井哲夫さんの歌が心に残った。〈出来た子もそれなりの子も働いて働きぬいて今日同窓会〉◆小学、中学、高校。一緒に過ごす友人の中には成績がいい子もいれば、芳しくない子もいる。卒業後は選んだ道を進み、懸命に働いて生きていく。その足跡にはそれぞれの誇りがあり、定年後の同窓会では昔の成績など思い出話でしかない◆それなのに…と、思わずにはいられない。大学入学共通テストの受験生ら3人が刺された事件。逮捕された私立高2年の少年(17)は医師になろうと東大を目指していたという。昨日の社会面には成績不振、学歴への執着が事件の背景とみる記事が載っていた◆成績や学歴がすべてではないのに、自分だけの狭い考えに縛られてしまう。誰しも思い詰めた経験はあるが、なぜ人を傷つける凶行に走ったのか。藤井さんの歌が伝えるように、教えてくれる人がそばにいればよかった。(知)

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