岸田文雄首相は新型コロナウイルス「オミクロン株」感染の急拡大を受け対策強化を表明した。

 ただ12歳未満の子どもへのワクチン接種拡大、自衛隊による大規模接種センター再開設など実現が見通せる項目羅列の域を出ない。生煮えのまま発表を急いだためか、いつからいかに実施するかの具体論を欠き、付け焼き刃の印象が拭えない。

 首相は記者の質問に答え急きょ対策を示した。岸田政権として初めて迎えた感染急拡大に危機感を強め、17日召集の通常国会を前に野党の追及をかわす「先手」を打った形だ。ここで緊急事態宣言発令などに至れば、長期政権への足がかりとしたい夏の参院選も厳しくなるとの思いがにじむ。

 しかし、医療逼迫(ひっぱく)回避策や無料検査拡充といったオミクロン対策を発表した年頭会見から1週間での追加措置だ。先の3連休までに各地で感染者が急増したため、専門家とも協議したが事態が進行する速度に追いつかず、明らかに準備不足だった。政府はオミクロン株の感染力への認識が甘かったと言わざるを得ない。

 第一の問題点は医療提供体制だ。オミクロン株は重症化率が低いとされるが、それでも感染者が膨大になれば入院病床はあっという間に逼迫する。首相は、即応可能な病床確保は順調で、在宅療養者に対応する1万6千医療機関も全国で準備したと現状の取り組みを述べる一方、新規対応としては状況が厳しい地域への自衛隊看護師派遣や今後の入退院基準見直しくらいしか示せなかった。

 各種調整に当たる保健所のパンクを防ぐため「情報技術(IT)を活用した保健所に頼らない重層的ネットワーク」を整備すると首相は言うが、実用化は先の話であり急場の対策にはならない。

 自宅、在宅療養者を支える軽症者向けの飲み薬も、首相は米メルク製2万人分を登録医療機関などに配布済みで、米ファイザー製も2月中に実用化するとした。しかしファイザー製は国内では承認前であり供給が順調に進む保証はない。

 そして首相が感染防止の決め手と期待するワクチン3回目接種の前倒しも綱渡りが懸念される。首相は、追加確保する1800万回分、自治体にある未使用の900万回分も活用し、今後は64歳以下の前倒し接種を進めると述べたが、供給が追いつかなければ計画倒れにならざるを得ない。

 また首相は入試に関しても、コロナの影響で大学入学共通テストを受けられなくなった受験生への追試、再追試による機会確保に加え「4月以降の入学も可能とする柔軟対応」を要請。これも共通テストまで1週間を切る中の唐突な表明だ。それで入試の公平、公正性は担保できるのか。政府は引き続き現場の混乱回避に努めるべきだ。

 外国人の新規入国を原則禁止する水際対策も「2月末まで維持」を決めたが、技能実習生を当てにする農業や製造業、留学生のアルバイトに頼るサービス業などへの影響に目配りが必要だろう。

 一方、緊急事態宣言発令などを判断する昨年11月策定の現行指標は、ワクチン普及を前提に、新規感染者数より医療逼迫状況を重視する「デルタ株向け」のものだ。ワクチン2回接種でも感染を防げず、感染速度が格段に速いオミクロン株に対し現行指標はマッチするのか。政府はそこから態勢を立て直すべきだ。(共同通信・古口健二)

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