「令和の女性」を描いた新シリーズの下絵を拡大コピーし、修正を入れていく中島潔さん=静岡県熱海市のアトリエ(撮影・米倉義房)

真剣な表情で絵に向かう中島潔さん=静岡県熱海市のアトリエ(撮影・米倉義房)

 描きたいものはすべて描き尽くした-。そう考えていた「風の画家」中島潔さん(78)=唐津厳木町出身=は4年前、再び新しいシリーズに向けて絵筆を執った。「本当の女性の姿を描ききっていないのではないか」。その思いに突き動かされたからだ。

 きょう1日、特別展「画業50周年 女性が輝く未来 一瞬間の“煌めき”~令和の心を女性に描く」(主催・佐賀新聞社、特別協賛・九電グループ)が佐賀市の県立美術館で開幕する。

 ◆実直な人柄

 半世紀に及ぶ中島ワールドの集大成が、初めて披露される。

 ふるさとをモチーフにした郷愁を誘う童画シリーズ。やわらかな筆致の情感あふれる女性画。そして、源氏物語の女性たちを描いた「源氏物語五十四帖」シリーズ。中島さんの作品はいずれも、実直な画家の人柄そのままに、込められたまなざしはいつもやさしく、あたたかい。

 それは、夭折の詩人金子みすゞの「大漁」をモチーフにした命のシリーズ、そして、作風を一変させて挑んだ「地獄絵」でさえ変わることはなかった。

 2001年9月の米同時多発テロの時も、中島さんの作品は人々の心を癒やした。それも、海外で。テロの直後、中島さんはフランス・パリで個展を開いた。会場横の建物が爆破されるという情報も飛び交い避難命令が出るなど、パリも緊迫していた。

 そこで披露した「大漁」。金子みすゞの詩から着想した。鰯の大漁を喜ぶ人々を、みすゞは「浜はまつりのようだけど/海のなかでは何万の/鰯のとむらいするだろう」とうたった。

 中島さんが描き出した画面を埋め尽くす鰯の群れと少女を描いた大作は、「いのち」の循環そのもの。ふるさとや子どもたちを描いた作品群と合わせてパリの人々の共感を呼び、三越エトワール美術館の動員記録を更新した。

 中島ワールドでもひときわ異彩を放つのが「地獄絵」である。2011年の東日本大震災は、画家に大きな衝撃を与えた。

 「なぜ、一生懸命に生きてきた人たちがあんな目に遭わなくちゃいけないのか」「なぜ、こんな悲惨な被災地でも盗んだり、悪いことをしたりする人間がいるのか」。憤りややりきれなさが、地獄絵へと向けられた。

 画家が魂と肉体を削るようにして、ようやく完成させた地獄絵「心音図(こころねず)」。おどろおどろしい地獄絵のはずなのに、そこにもはっきりと「救い」が存在する。

 震災犠牲者への鎮魂を込めた大作は2015年、京都・六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)に奉納された。

 ◆強さと美しさ

 そして、時代はめぐり、令和を迎えた。時代とともに歩み、画家としての高みを目指してきた中島さん。大正ロマンを代表する画家竹久夢二にもなぞらえられるたおやかな女性画が、生まれ変わろうとしている。

 ねぶた師、鷹匠、人形浄瑠璃、やぶさめ…。伝統文化を支える女性たちの姿を「自由・自立の精神」にあふれた新たな女性像として描き出す試みだ。

 「グローバルな世界の中で、伝統文化は日本人としての“核”を形作っている。それを支える女性が持つ『強さイコール美しさ』を描きたかった。しっかり、文化を受け継いでほしいと、女性たちへのエールを込めた」

 大胆な構図と繊細な表情を兼ね備えた、令和の女性たち。画業50年を迎え、新たな女性画が誕生した。

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