新年を迎えた。初詣に出掛ける人も多いだろうが、おさい銭はいくら? 10円、100円、500円。一年の幸せを願うわけだから奮発してお札にしようか。いや、神様は少額でも機嫌を損ねたりはしないはず…。さい銭箱の前で瞬時、思いが巡る◆詩人の吉野弘さんが旅先でおさい銭をけちった思い出をエッセーに書いている。ポケットの中には100円玉3枚と10円玉が7、8枚。手を入れると、100円玉が3枚出てきた。行きずりの祠(ほこら)の神に300円は多すぎる。そんな気がしてポケットに戻し、もう一度取り出すと、また100円玉が3枚出てきたという◆〈祠の神が向こうをむき、声をしのばせてお笑いになったような気がした〉。吉野さんはさらに想像を膨らませる。神様が所望したのは人間の「初心」であり、実は人間も自分自身に対して初心を所望するのではないか、と◆「初心に帰る」「初心を忘れず」というが、日常はその場、その時の判断でやり過ごす。そうしなければやっていけないのも現実だが、気づかないうちに初心からは大きく離れてしまっている◆年が改まった元日は初心に帰るとともに、新たな初心を胸にする日でもあるだろう。できるだけ自らに初心を求めて、一年を歩みたい。さて、おさい銭はいくらにするか。けちらずにと思いながら初詣に出掛ける。(知)

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