聖火ランナーのユニホームを手に「聖火リレーや五輪は夢や希望を先につなげる役割を果たした」と話す山本千恵子さん=佐賀市の県難病相談支援センター

 「トーチを見ると、なぜかお年寄りも子どももみんなが笑顔になるんですよ」。佐賀県内で実施された東京五輪の聖火リレーで走った寺田恭夫さん(76)=三養基郡みやき町=は、リレー参加を機に、保育園や小学校などで何度も体験談を語り、トーチも貸し出した。

 県内の聖火リレーは5月にあり、寺田さんら総勢178人が聖火をつないだ。全国で新型コロナウイルスの感染者が急増した時期。東京など4都府県に緊急事態宣言が出され、公道でのリレーを中止する自治体も相次いだ。佐賀でも感染者の確認は続いていたが、県は感染対策を徹底して予定通り実施した。

 寺田さんはこれまで小学校など5カ所を回った。トーチを見せると「きれい」「自分も聖火リレーを走ってみたい」と喜んでくれる。「自分の得意なものを伸ばせば、五輪選手のようになれるチャンスは誰にでもある」。寺田さんは子どもたちに毎回そう呼び掛け、「コロナ下で協力し合って開かれた大会であることを心に刻んで」と願っている。

 難病指定の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、県難病相談支援センターで相談員を務める山本千恵子さん(57)=小城市=は車いすで聖火をつないだ。リレー中も役目を終えた後もたくさんの声援を受けた。「障害への理解や関心の深まりを感じている」と世の中の変化を見つめ、「障害がある人から『自分も頑張ろうと思った』と言われ、陰で誰かの助けになれたことがうれしかった」と目を細めた。

 県スポーツ課は、国籍や障害の有無などに関わらずさまざまな人がつないだ聖火リレーを「県民の財産」と表し、コロナ禍の苦境を乗り越えるきっかけになったと振り返る。

 「聖火ランナーやスタッフ、五輪やパラの選手が頑張る姿から『コロナで苦しくても諦めず進んでいこう』と思えたはず。夢や希望を先につなげる役割があったのでは」と山本さん。聖火の「希望の炎」は、閉塞感漂う社会を温かく照らし、笑顔や前を向くための糧になった。(西浦福紗)

 

 東京五輪聖火リレー 佐賀県内は5月9、10日にあり、13歳から80歳までの178人が全20市町を巡った。新型コロナウイルスの感染対策を徹底し、点火式などのイベントは縮小。県は沿道の密集を避けるため、インターネットのライブ中継での観覧を呼び掛けた。