作家の池波正太郎さんが『男の作法』(新潮文庫)で俳優の緒形拳さんからの贈り物を紹介している。毎年、暮れになると届いたのは風呂で使う手桶(おけ)。お歳暮としてはかなり奇抜だが、緒形さんだからなのか、粋な贈り物に思える◆「風呂の手桶は年中使っているものだから、1年ぐらいたつとタガがはずれたり、腐ってきたり、変になってくるわけだ。それで緒形も風呂桶がいいと思うんでしょう」と池波さん。新しい手桶を使い、「1年、頑張ったな」と疲れを癒やしたのだろう◆お歳暮の時季である。先祖へのお供えの風習が由来ともされ、江戸時代になって武士や商人の世界で贈り物をする習慣が根づいた。明治以降、お世話になった人に贈る現在のような習慣が広がったという◆百貨店や大型店には、お歳暮コーナーが設けられている。商戦を伝える記事によると、今年はやや価格の高い県産品が人気。コロナ下、自宅でゆっくり過ごしてもらおうという心配りのようだ。感染予防のため、オンライン注文や宅配が増えているところにも世相が表れている◆さすがに手桶は奇抜すぎるが、無難すぎるのもどうか。お歳暮を選ぶのは悩ましいが、要は「今年もお世話になりました」という感謝の気持ち。池波さんも「一生懸命、選んでくれたんだなあと通じればそれでいい」と語っている。(知)

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