♪知らない街を歩いてみたい/どこか遠くへ行きたい-。永六輔さんの詞に、中村八大さんが曲を付けた「遠くへ行きたい」は旅番組のテーマ曲にも使われた。秋深まるこの季節になると、ふと浮かんでくる◆数日、休んだとしてさほど支障が出るわけではないが、会社勤めは「自分がいなければ」と多少の思い込みに支えられているところもある。「遠くへ行きたい」は胸にとどめて、口ずさむしかない◆元くまもと文学・歴史館長の井上智重さんから近著『いつも隣に山頭火』(言視舎)が届いた。井上さんは佐賀新聞、熊本日日新聞などで42年間の記者生活を送り、退職後も地方の文化や歴史を記録している◆〈分け入っても分け入っても青い山〉〈うしろ姿のしぐれてゆくか〉。『いつも隣に-』は種田山頭火(1882~1940年)の秀句に沿いながら日記や新聞記事などの資料を読み込み、丁寧な取材で足跡をたどっている。32(昭和7)年には佐賀県内を行乞(ぎょうこつ)。虹の松原の茶店や佐賀市にあった「大ばかもり食堂」などにも立ち寄り、ふらり、ふらりと歩いている◆孤高の旅を続けた山頭火に「遠くへ行きたい」が重なるが、井上さんはボブ・ディランの「風に吹かれて」が流れてくるという。しなやかで自由な山頭火の生き方に憧れを抱きつつ、仕事に向かう月曜の朝である。(知)

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