リコール署名偽造事件公判 検察側の主な指摘

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件の公判では、運動事務局長田中孝博被告(60)らが組織的に偽造を計画したとみられることが分かった。大金で名簿購入、センター試験のような偽造現場…。検察側の冒頭陳述などを基に民主主義の根幹を揺るがした不正の発端から終幕までをたどった。【共同】

 ▽極 秘

 2020年9月末、署名を選挙管理委員会に仮提出する期限が約1カ月後に迫っていた。手元には6073筆。必要な法定署名数約86万筆の1%にも満たず、田中被告は他人の氏名を無断使用することを思い立つ。

 10月に入り、次男雅人被告(29)と東京に行き、業者から533万円で県内約80万人の名簿データを入手した。「極秘でお願いします」と記したメールで運動スタッフにデータを送信。偽造に必要な生年月日の和暦変換や署名簿用紙11万枚の発注といった指示を矢継ぎ早に飛ばした。

 「署名代筆の人集めをお願いしたい」。同8日、広告関連会社社長だった山口彬被告(38)に切り出した。「代筆って駄目ですよね」と固辞されたが、こう畳み掛けた。「しょせん署名なんていちいち本人確認しないし、皆普通にやっている」

 結局、自社の免責などを条件に了承した山口被告。運動を主導し、知名度がある美容整形外科「高須クリニック」の高須克弥院長と関係を築きたい思惑が元々あったとされる。

 ▽異 様

 被告らは協力し偽造会場の確保や、携帯電話を会場に持ち込まないと誓約させる「秘密保持確認書」作りなど準備を加速。10月下旬、佐賀市の貸会議室で署名の書き写しが始まった。

 アルバイトを大量動員、机には多くの名簿…。「大学入試センター試験のように多くの人間が黙々と何かを書いていた。異様な光景だった」。立ち会った会社関係者は驚いた。田中被告も思わず「すごいね」。運動用口座から現金を引き出し、山口被告に700万円を支払った。

 最終的に秘密保持確認書は千枚を超えた。署名簿に必要な指印作業には高須院長の秘書も関わったと検察側は指摘する。

 ▽崩 壊

 11月4日、仮提出にこぎ着けた。直後、約43万筆にとどまり必要数に達しないとの報道が相次ぐ。田中被告は署名簿の回収を急ぎ、偽造に関わる書類は雅人被告に架空会社を名乗らせ産廃業者に破砕処理させた。

 今年2月1日、県選管が署名約8割に不正疑いと発表。会社に取材の申し込みがきた山口被告は田中被告に相談するも、逆に自社免責を記した書面を返すよう迫られた。責任を全て転嫁され、自分だけ罪に問われる―。危機感を抱き自ら捜査機関に全てを打ち明けた。協力関係はあっけなく崩れた。

 9月から名古屋地裁で始まった公判。地方自治法違反罪の起訴内容の認否を田中被告と雅人被告は留保した。一方、山口被告は言い切った。「間違いありません」

■リコール署名偽造事件

 大村秀章愛知県知事のリコール(解職請求)運動を巡り、運動事務局が選挙管理委員会に提出した署名のうち8割超が無効と判断された。県警は、地方自治法違反の疑いで運動事務局長田中孝博被告や次男ら4人を逮捕。リコール運動は、大村氏が実行委員会会長を務めた芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」を問題視した高須クリニックの高須克弥院長が主導し、名古屋市の河村たかし市長らが支援した。

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