「時の人」の周りに人だかりができていた。衆院選が公示された19日、自民前職の岩田和親(48)の出陣式。17日の佐賀市長選で自民党の推薦を受けて当選した坂井英隆がマイクを握ると、ひときわ大きな拍手が起こった。陣営関係者は言う。「追い風にしていく。坂井氏にはできる限り選挙戦でも表に出てきてもらいたい」。ただ、順風とばかりはいえない内実も浮かび上がる。

 岩田と坂井の選挙対策本部は市議や県議を中心に顔ぶれが重なる。市長選を終え、岩田事務所に足を運んだ一人はがくぜんとした。市議が案内役を務める街演計画が固まっていない。毎晩開く決起大会の日程は急きょ埋めたが、20日は穴が空いた。ポスターができたのも公示4日前。「準備不足はいなめないが、とにかく立て直すしかない」

 市長選は自民系市議の半数が割れる保守分裂の激戦だった。敗れた候補を推した市議の一人は人目を避けるように夜に岩田事務所を訪ねた。「何かあれば自民党からではなく、岩田事務所から直接言ってくれ」。推薦を巡る対立で党へのわだかまりは消えない。「中一日でいきなりノーサイドとはならないが、気の毒なのは岩田さん。応援はしっかりやるつもり」。複雑な胸中を吐露した。

 岩田陣営は23日を起爆剤にしたい考えだ。所属派閥の会長の岸田文雄首相が応援で来県する。「直接、首相に佐賀の声を届けることができるのは自分だ」。岩田は演説で必ずこう訴える。陣営は総裁選、市長選で吹き始めた「風」を受け止められるかどうかが、勝負の分水嶺になるとみている。

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 「自民党総裁選の影響は大きい。この間の佐賀市長選の影響も大きい。危ない選挙だ」。公示翌日の夜に市内で開かれた立憲民主党前職の原口一博(62)の個人演説会。市長選で当選した自民推薦候補に、自らが支援した候補が届かなかったことに言及し、危機感を訴えた。

 市長選投開票日には「衆院選の前哨戦ではない。構図が全然違う」とかわしていたが、公示日の街演後は一転、「市長選から続いているので厳しい戦いだと思う」と危機感を口にした。

 一方、陣営幹部は「国政選挙なので空気は変わっている。衆院選への影響はない」とみる。無所属で出馬し圧勝した前回の結果が示すように、政党や組織によらない「原口党」と呼ばれる高い人気と知名度を誇る。「対向車や通行人の反応がいい。今まで以上の手応えを感じる」。日々の動きを常にインターネットでライブ配信し、地域をくまなく回る。

 全国的に野党共闘が実現し、1区も原口に一本化された。共産党県委員会が佐賀市で開いた街頭演説会では、共産の参院議員が「1区で原口さん、2区で大串さんを押し上げたい。野党で政権を変えるために力を尽くす」と共闘を印象付けた。ただ、一緒に演説しようと呼び掛けられた原口の姿はなかった。

 共産支持層からの得票を見込む一方、距離感には細心の注意を払う。陣営関係者は「長い時間をかけて関係を築いてきた連合佐賀や社民と同じではない。それぞれの持ち分を発揮できるいい距離感、バランスを取る必要がある」。勝負の分かれ目となる中間層の保守票が逃げることは何としても避けたい考えだ。(衆院選取材班)

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 前回は全国で唯一、自民候補が小選挙区で全敗した佐賀県。1、2区ともに比例復活した自民前職が立民前職に挑む激戦となっている。両選挙区の攻防を追った。(敬称略)

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