4年ぶりとなる衆院選が公示された。主要な争点の一つは、言うまでもなく経済だ。第2次安倍政権以降、9年近く続いた現在の自公連立政権の成果と課題をどう総括するか。野党が提示する構想をどう評価するか。ともに有権者の重要な判断材料となる。

 今回の一つの特徴は、ほとんどの政党が現金給付を訴えている点だ。コロナ禍であぶり出された経済格差を受け、分配がより重視されるようになったことは評価したい。だが、財源議論を置き去りにし、各党が給付や経済対策の規模を競い合うような状況は無責任で、甘言で票を集めようとしているに等しい。

 立憲民主党は低所得者を対象に年12万円、公明党は18歳までの子どもに一律10万円、共産党は年収1千万円程度までの収入が減った人に10万円の現金給付を打ち出した。自民党の岸田文雄総裁(首相)も、18日の党首討論会で「国民に十分な現金給付」を実施する考えを強調した。

 コロナで多くの人々の所得が落ち込んだ中、現金給付は痛みを和らげる一つの方策だ。大半が貯蓄され、消費刺激効果が乏しいとの批判もあるが、経済的な不安を抱える世帯にとっては貯蓄が増えるだけでも安心感につながる。政策としての有効性を一概に否定するべきではない。

 問題は財源だ。幅広い層を対象とした現金給付は米国や英国でも行われたが、いずれも法人税率引き上げや富裕層への増税とセットで提案・導入されている。国内では立民と共産が法人税増税などに触れただけで、大半は国債発行による借り入れを主張している。

 野党が足並みをそろえた消費税率引き下げも、減税自体は検討に値しても、代替財源が伴わなければ非現実的だ。

 いくらでも借金を重ねればいいという発想は危険極まりない。たしかに国は企業や家計と異なり、借金を完済する必要は必ずしもない。だがそれは、借金がどれだけ増えても破綻しないということを意味しない。

 借金がどの水準まで増えれば財政危機が訪れるのかは誰にも分からない。だが、起きたときの国民生活への打撃は計り知れないという当たり前のことを、各党ともいま一度思い起こす必要がある。

 一方、コロナという非常事態を受け、ひとまず財政赤字拡大を許容するとしても、その後の経済成長をどう実現するかは、国民生活を向上させる上でも、財政危機を招かないようにするためにも極めて重要だ。

 この点で、規制緩和を徹底して企業が活動しやすくすれば国民全体が豊かになるという、いわゆる新自由主義的な主張から多くの党が距離を置くようになったのは歓迎すべきだ。富める者がますます富めば、経済全体に恩恵がしたたり落ちる(トリクルダウン)という考えは、現実に起きた格差拡大によって明確に否定されたといっていい。

 自民は引き続き税優遇措置によって企業の賃上げや設備投資、研究開発を後押しすることを前面に打ち出した。これに対し、立民や共産は労働者派遣法の見直しによる非正規労働者の正社員化を掲げる。いわば企業の負担増によって賃金の底上げを図り、経済を刺激する政策で、方向性は大きく異なる。

 各党の主張に耳を澄ませ、納得の行く一票を投じたい。(共同通信・井手壮平)

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