〈広いすそ野の腰岳に そっと小声で「かあさん」と 声をかけたらあたたかく 抱いてくれたよ その胸に〉

 伊万里市の立花小学校の校歌には、校舎を懐に抱く腰岳が歌われている。作詞は同市出身の詩人片岡繁男。詩人が優しい母に例えた、なだらかな円錐(えんすい)形の山は、歴史的にも実に3万年も人々の営みを支えた「母なる山」だった。

 腰岳は旧石器~縄文時代、石器の素材となる黒曜石の一大産地で、遠くは沖縄、韓国まで運ばれている。考古学者らの研究で九州随一の採石地だったことが分かり、先日伊万里市で開かれたシンポジウムでは、文化遺産としての保存と活用を呼び掛けた。

 腰岳の黒曜石は、弥生時代に金属器に取って代わられるまでの3万3000年にわたり、太古の人々の暮らしを支えてきた。人類は石器作りを教える過程で言語を獲得したという説もあり、腰岳は、九州一帯の文化の母だったと考えることもできる。

 地元の人にとっては足元に転がっている珍しくもない黒い石だが、想像の翼を広げれば、悠久の歴史の旅へいざなってくれる。宝の原石を磨かないのはもったいない。(伊万里支局・青木宏文)

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