岸田文雄首相は、新型コロナウイルス感染拡大の「第6波」に備えた医療体制強化など対応の骨格を示し、11月の具体策策定を閣僚に指示した。

 公立・公的病院の統廃合や病床削減を進める従来の政府構想見直しを主張する立憲民主党などに対抗した衆院選の目玉づくりだ。だが国の権限で医療現場に強制するだけで目指す1・2倍の入院患者受け入れが可能な体制が整うのか。政策の目標ではなく実現への道筋を示し審判を仰ぐべきだ。

 今回の骨格は、今夏の「第5波」に比べウイルスの感染力が2倍となった場合に備え、重症者を中心とする入院患者の受け入れ体制を強化するという。3倍になれば「強い行動制限を国民に求める」とともに「国の責任で一般医療を制限し緊急的な病床を確保」と明記した。首相が言う「最悪の事態を想定した危機管理」を実行に移そうとする姿勢は評価したい。

 だが問題点はある。第一に、病床確保を迫る対象が公立・公的病院で、全国の病床数の7割を占める民間病院が事実上除外されていることだ。公立・公的病院はこれまでもコロナ対応を担う中心だった。それでも政府は、コロナ病床として申告しても患者を受け入れない「幽霊病床」を問題視し使用率向上を求める。

 これでは日本の医療の構造問題から発する病床確保難の責任をもっぱら公立・公的病院に負わせることにならないか。

 第二に、国や自治体の意向に逆らいづらい公立・公的病院に国の権限で迫る手法で本当に成果が上がるのか。病床確保が難しい主な原因は、医師や看護師など必要な医療人材の配置が追いつかないことだ。強制する前に、まず政府は自治体や医師会などと連携し医療人材の機動的な融通を実現するべきではないか。

 感染力2倍でも入院患者2割増で済む想定はワクチン、治療薬の普及を前提にしており、政府のコロナ対応にはウイルスと共存しながらの経済活動本格化を目指す色合いが濃い。これに対し立民が衆院選で公約するコロナ対策は「全入国者を10日以上、政府が用意したホテルで隔離」など水際対策、検査体制の強化で感染防止により力点を置いたのが特徴だ。

 その上で立民は病床確保に関し「公立・公的病院の統廃合や病床削減を進める『地域医療構想』を抜本的に見直す」「コロナ対応した医療・介護従事者に20万円の慰労金支給」を表明。共産党公約も「感染症病床や救急救命体制の予算を倍増」とし、いずれも財政出動を含む医療現場への支援を対策の軸としている。

 政府の「北風」と野党の「太陽」、いずれが有効か。それを有権者が判断して投票するには具体策提示が欠かせない。

 その意味で、首相が衆院選直前に見栄えのする「看板」を掲げ、具体化は選挙後としたのは不誠実と言わざるを得ない。首相が自民党総裁選で表明した「健康危機管理庁創設」も党公約から落ちた。都合よく看板を上げ下ろししていないか。

 一方、首相は総裁選を通じ、コロナで困窮する事業者、非正規雇用労働者らへの給付金支給など数十兆円規模の経済対策を実施すると主張。立民は「30兆円超の補正予算」、国民民主党に至っては「50兆円規模」を公約している。与野党による大盤振る舞い合戦も有権者の選択肢を狭めることは言うまでもない。(共同通信・古口健二)

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