傷んだ民主主義を再生させ、新型コロナウイルス禍の経験を経たこの国の未来図をどう描くのか。4年ぶりの政権選択選挙は、私たちが意思表示する貴重な機会となる。

 衆院が解散され、各党は31日の投票日に向け、異例の短期決戦に突入した。選挙は公約などに示される「今後」の政策に目を奪われがちだが、投票に当たって欠かせないのは政権のこれまでの仕事ぶりという「過去」を検証する視点だろう。

 9年近くにわたった安倍、菅両政権はさまざまな負の遺産を残したからだ。これと決別しなければ、岸田文雄首相が訴える信頼と共感の政治も、新しい時代を切り開くこともおぼつかない。

 敵と味方を峻別(しゅんべつ)して異論を封じ込める政治手法は、国民の分断を招いた。疑問に対して真摯(しんし)に向き合わず、国会論戦から逃げ、資料を隠し、平然と虚偽答弁を繰り返す。国権の最高機関の権威と機能の失墜は一段と進行。三権分立はきしみ、言論の府で議論を尽くす、公文書を適切に管理して、情報開示に努めるという民主主義の根幹がないがしろにされた。これが「安倍・菅政治」の実像である。

 自民党総裁選時に「わが国の民主主義が危機にひんしている」と問題意識を表明しながら、所信表明演説や代表質問の答弁を聞く限り、安倍晋三元首相らへの気遣いなのか、岸田首相が打破していく本気度は怪しいと言わざるを得ない。

 所信では頻発する自民党の「政治とカネ」の問題は素通り。甘利明幹事長の建設会社からの金銭授受疑惑も、加計、森友両学園、桜を見る会問題も、河井克行元法相と案里夫妻の買収事件も、日本学術会議の会員任命拒否も、説明責任を果たそうという姿は見えてこなかった。そして、野党の予算委員会開催要求を突っぱねたところは、安倍、菅両政権と本質的に変わっていないことを表しており、その意味で民主主義の在り方が最大の争点となろう。

 新型コロナとの闘いで、自民、公明両党の政権が失態を演じたことも忘れてはならない。専門知を軽視し、自治体や野党の提言を含む英知を、スピード感を持って結集できず、国民との対話も不十分なまま、対応が迷走した。ワクチン接種が加速し、新規感染者は激減しているとはいえ、感染爆発で医療が事実上崩壊したのは紛れもない事実。救える命を救えたのか、厳しい総括が求められる。

 アベノミクスがもたらした富める者と富まざる者という格差の拡大を、どのように克服していくかも問われる。「新しい資本主義」を掲げ、成長と分配の好循環を主張する岸田首相だが、就任後は総裁選で挙げた金融所得課税の強化などについての言及を避け、岸田カラーはすっかり後退してしまった。アベノミクスの評価を徹底的に論じることが必要だ。

 野党は自公政権とどこが違うのか、明確な分かりやすい対立軸を提示し、財源に裏打ちされた実現性や説得力のある政策によって政権担当能力を見せ、選挙戦を通じて国のかたちを競い合ってもらいたい。

 政治の舞台から緊張感が喪失して久しい。それを取り戻すことができるのか、民主主義の立て直しとともに若い世代には未来が懸かった1票である。4年間の記憶を呼び起こしながら投じたい。(共同通信・橋詰邦弘)

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