米国で新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が始まった。バイデン政権が全ての成人を対象に行うとした方針に、有効性や安全性のデータが不足しているとして専門家の多くが反対し、高齢者など一部に限定して実施することになった。

 接種を2回完了しても、感染力の強いデルタ株に感染する人が増え、日本など多くの先進国が3回目接種に動いているが、根拠となるデータは十分でないのが実情だ。

 先進国の3回目接種によって途上国へのワクチン供給が遅れることが懸念され、世界保健機関(WHO)は年内の3回目接種を見合わせるよう求めている。各国は科学的知見を尊重するとともに、世界的な公正さに配慮しなければならない。

 3回目接種で先頭を走るイスラエルは対象を60歳以上から始め、12歳以上に広げた。英国やドイツ、フランスでは今のところ高齢者などが対象で、健康な若い人々には接種していない。

 感染者数、死者数がいずれも世界最悪の米国で、デルタ株流行とアフガニスタン情勢悪化で政権批判が高まった8月中旬、バイデン大統領は「早期収束に役立つ」として3回目接種を9月20日以降実施すると表明した。

 ところがワクチンを審査して認可する食品医薬品局(FDA)の幹部らが、全成人を対象にするべきだと言える証拠はないとの見解を医学誌で発表するなど身内からも異論が出た。当初、ファイザー製、モデルナ製の両方を使う予定だったが、モデルナはデータ提出が遅れ、ファイザーだけの審査となり、FDAと、接種の指針を示す疾病対策センター(CDC)のいずれの外部有識者委員会も、対象を65歳以上の高齢者や持病を持つ人に限定するべきだとした。

 日本でも厚生労働省のワクチン分科会が3回目接種の方針を了承し、厚労省は自治体に、年内開始を想定して準備するよう要請している。準備は怠ってはいけないが、実際の対象や接種時期は科学的データに基づいて慎重に検討する必要がある。

 接種が先進国に偏っているという批判を念頭に、バイデン氏は国連総会一般討論演説の期間に合わせて自ら主催したオンライン形式のサミット(首脳会議)で、米国が途上国向けなどに提供するワクチンをこれまで表明していた6億回分から、計11億回分に増やすとして貢献をアピールした。

 同サミットで国連のグテレス事務総長が「接種の73%は上位10カ国に集中している。一方、アフリカの住民は3%しか接種を受けていない」と嘆いた通り、供給はなお不十分だ。途上国で感染が長引けばワクチンが効きにくい変異株出現の可能性が高まり、全人類にとって重大なリスクとなる。

 日本と米国、オーストラリア、インドの協力枠組み「クアッド」の4カ国首脳は初めて開いた直接会合で、引き続きワクチン生産・供給で連携することを確認した。インドはワクチン生産大国で、公平分配の国際的枠組み「COVAX(コバックス)」の主な供給元として分配の鍵を握る国だ。

 日米などは3月に、インドの生産を促進する資金支援などで合意したが、インドでその後デルタ株が猛威を振るってワクチン輸出が止まり、世界的な分配に支障が出た。生産・供給体制の立て直しに各国が協力しなければならない。日本も一層の貢献を進めたい。(共同通信・上村淳)

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