手話をしながら「ふるさと」を歌う高齢者=伊万里市二里町のデイサービス「リアン」

 伊万里市のデイサービス事業所「リアン」の利用者が、認知症のケアに手話を取り入れて効果を上げている。利用者25人ほどの平均年齢は約90歳。重度の認知症の人が半数を占める中、1年間練習してほぼ全員が唱歌「ふるさと」を手話をつけて歌えるようになった。代表者は「認知症だから新しいことはできないと決めつけず、可能性を信じて毎日続けたら習得できた」といい、地域の介護関係者を驚かせている。

 「リアン」は2013年に開設。併設する有料老人ホームの入所者らの通所介護を行い、朝のレクリエーションで歌を歌っている。利用者のほとんどに認知症の症状がある。

 歌に手話を取り入れたのは、聴覚障害を持つ前田智奈美さん(50)の入社がきっかけだった。前田さんは以前は焼き物の絵付け職人をしていて、2年前に職場の窯元が閉じたのを機に転職してきた。社長の藤早百合さん(64)は「介護の仕事ができるか心配だった」というが、身ぶり手ぶりで利用者と上手にコミュニケーションを取る様子に、ケアの可能性が広がるのを感じた。

 挑戦する曲はテンポが緩やかな「ふるさと」にし、職員たちが前田さんに手話を教わって利用者の前で披露した。初めは一緒にしようと呼び掛けても利用者の手はぴくりともしなかったが、1日1回、毎日続けるうちに少しずつ動くようになった。1年が過ぎるころには、ほとんどの利用者が歌詞の1番から3番までを表現できるようになった。

 藤さんは「手話には脳を活性化させる効果があるとはいうものの、5分前にご飯を食べたことも、家族のことも分からない人が1曲分の手話を覚えることができた。難しいことを成し遂げたみなさんの姿に感動している」と話す。

 今月上旬には市内の医療・福祉関係者の研修会でこの取り組みが発表され、映像を見た参加者を驚かせた。長年地域医療に携わる社会医療法人「謙仁会」(伊万里市)の山元章生理事長(72)は「一般的な認知症ケアでは本人ができていたことを維持するのを目的とするが、新しいことを習得しようと挑戦したのが素晴らしい」と感心する。

 「リアン」では利用者で合唱団をつくり、他の高齢者施設や病院を訪問して歌を披露してきた。新型コロナウイルスの感染拡大で発表ができない中で、手話の習得は新たなやりがいになっているようだ。

 間もなく次に挑戦する曲の練習が始まる。(青木宏文)

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